2007年9月29日土曜日

日本の最南端で最先端を試す・八重山毎日新聞社の挑戦

Yaeyama01 産経新聞の「イザ!」や毎日新聞の「毎日jp」など、大手新聞社による読者参加型サイト、いわゆる「web2.0的」なサイトが次々に登場している。こうした取り組みはビジネスモデルや運営方法に未知の部分も多く、その挑戦には大きな覚悟が必要だ。これまでとは全く異なるサイトを構築するため、投資額も相当なものになる。



 だがそれを、開発コストゼロ、しかもたった1人で実現した新聞社がある。「日本最南端の新聞社」を標榜する八重山毎日新聞社(沖縄県石垣市)だ。同社のウェブサイト「八重山毎日オンライン」は、ほぼすべての記事でコメント投稿とトラックバックを受け付け、RSSフィードなども積極的に活用。ワンクリックでソーシャルブックマークサービスへの登録も可能というまさにweb2.0時代の新聞社サイトだ。



 


八重山毎日オンラインの概要


Yaeyama02  八重山毎日新聞社のサイトを開くと、タイトル画面の上に「ようこそゲストさん/ログイン/新規登録」というテキストが並び、会員制サービスであることを示している。記事の閲覧に会員登録は不要だが、会員になるとコメントを投稿できるようになるほか、気になった記事を自分専用のページに保存するなどの機能が利用できる。登録は無料で、特に新聞の購読者でなくてはいけない、といった条件はない。名前とメールアドレス、希望するユーザーIDとパスワードのみの簡単な記入で登録は完了する。


 コメント、トラックバックはほぼすべての記事で受け付けている。関心の高い記事には複数のコメントがつくこともある。また各記事の見出しの下には3つのボタンが並んでおり、ソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」への登録、自分専用ページへの保存、PDFファイルのダウンロードがワンクリックでできる。なおPDFは新聞紙面のイメージになっているわけではなく、一般的な文書形式になる。


Yaeyama05 トップページには八重山地方の地図が表示されており、記事で紹介している事件やできごとが発生した場所にマークが付けられている。そのマークをクリックすると、記事の見出しや写真が表示され、その記事を読むことができる仕組みだ。地図上で任意の場所を選び、そこでどのようなニュースがあったかを検索することもできる。


 このサイトはRSSフィードを提供しているので、更新情報はRSSリーダーを使って確認できる。「ニュース」のフィードに加え「コメント」のフィードもある。


 全体的には、一般的なブログサービスが提供している機能の多くが盛り込まれていることから、「ブログ風」という印象だ。どこか手作り感がただようデザインもその印象を色濃くしている。


 



 


開発・運用担当者インタビュー


 このサイトの構築・運用を手がける、八重山毎日新聞社メディア統括局の立松聖久氏=写真=に話を聞いた。


 


――サイトを現在の形にした背景は


 2005年3月にリニューアルしたが、それ以前は市販のホームページ製作ソフトを使って更新していた。作業に非常に時間がかかり、かつ複雑で、これをまず効率化したかった。また、過去記事を検索する機能を実装したかったこともある。


――ソフトウエアは何を使っているのか


 自作したものだ。当初、市販のコンテンツ管理ソフトが使えないか検討したが、いずれもオーバースペックだったり、必要な機能がなかったり、とぴたりと当てはまるものがなかった。わが社の規模では何千万円もかけてオーダーメードのシステムを作ることはできない。そこで自作を考えた。自作すれば利用しながら改善したり修正したりすることも容易になる。当時すでにブログがブームになりつつあり、ブログ的なシンプルなものなら自分でも作れそうだし、読者にも受け入れやすいと思い、このような形式にした。


 この自作したシステムに、オープンソースソフトウエアや、公開されているAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を使って機能を付加している。例えば、各記事ごとに過去の類似記事を自動的に抽出して表示する仕組みがあるが、これは(有)未来検索ブラジルが開発したオープンソースソフトウエア「Senna」をカスタマイズしたものだ。また、記事が紹介している場所を地図上に表示する仕組みは、グーグル社の「グーグルマップ」APIを使っている。


――開発コスト、開発期間は


 自作と無料のオープンソースソフトウエア、APIを使っているので直接的なコストはゼロ。開発期間は約1カ月で、たずさわった人員はデザインまで含めて自分ひとりだ。公開後もひんぱんに修正を行っている。小回りがきくのが自作ソフトのいいところだ。


 システムの小回りがきくことは、地域密着型できめの細かい情報サービスを進めるのにも好都合だ。そもそも、インターネットのサービスは走りながら考えるのが基本だと思う。リクルートや地図情報サービスのアルプスのように、社内にラボを設置し実験的な取り組みを次々行う体制が注目されているが、そうした姿勢が理想的なのではないか。


――現在の閲覧数、会員数は


 1日のページビューは平均して2万ほど。登録会員は4,000名程度だ。当初は登録しないと記事をあまり読めないようにしていたが、まずは読んでもらわないと次の展開も難しい、ということで閲覧は誰でもできるようにした。


 より多くの人に読んでもらうためには、リンクを貼ってもらうことも重要だ。フレーム取り込みなど、別のサイトの一部に見えるような形でさえなければ、どの記事にリンクを貼ってもらっても構わない。「はてなブックマーク」にはワンクリックで各記事を登録できるボタンを用意してある。


 自分のブログに記事へのリンクを貼っているブロガーの大部分は、わが社の報道に対し好意的な人たちだ。そういう人に対し、厳しいリンクポリシーで抵抗感を持たせることは得策ではないのではないか。


――ビジネスモデルはどうか


 地域の新聞社と共同通信社が運営する「47CLUB」から配信されるバナー広告を掲載している。ほかに、グーグルのコンテンツ連動型広告や、アマゾンの成果報酬型広告といった、主に個人サイト向けの広告サービスも組み込んでいるが、これはほとんど収入にならない。現在、独自のバナー広告の設置を検討している。長期的には有料コンテンツの配信なども考えたい。


――今後の展開は


 開発時に副産物的に作った、「島っぷ」というコンテンツはまだ本格的に稼動していないが、読者の方々が地図をベースにさまざまな情報を共有できる仕組みだ。観光で八重山を訪れた人や、新しく引っ越してきた人にこの地方の良さを知ってもらえるようなものにしたい。


 SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)にも興味はあるが、この分野では、すでにmixiが多くのユーザーを抱えているので、難しい側面もある。運営にかかわる人員の確保も問題だ。ただ、全国各地で地域ごとにコミュニティーが形成され、それらがゆるやかに連携できるような仕組みがあると面白いのでは、と思う。


 動画コンテンツも視野には入っている。これは、まず素材をどう集めるかが課題だ。それに、ただ動画を一方的に流すのでは面白くもなんともない。youtubeなど動画共有サイトのように、ユーザーが自分のブログに貼り付けたり互いにコメントをしたり、といったような仕組みを考えなくてはいけない。


――全社的な戦略の中で、「八重山毎日オンライン」はどのような位置にあるのか


 1万5000部の発行部数がある新聞事業が、まだビジネスモデルも確立できていないネット事業にとってかわる、という状況は考えにくい。だがわが社の場合、多くの読者が離島に住んでおり、天候によって新聞が届けられないケースがある。そのとき、ネットでニュースを伝えることは必要不可欠だ。そういう意味では、ネットでの事業展開は新聞社としての使命を果たすことだと思う。


 こうした意識は開発段階から経営トップとの間では共有できている。社内でもさらに浸透を図るために、新しい提案を積極的に行っていくつもりだ。


■関連リンク


八重山毎日オンライン


2 件のコメント:

  1. 今日は、私は毎日ネット八重山毎日新聞を読んでます。以前八重山に行ったことが何度かありまして、とてもいい所であり忘れられません。ちょうど今頃はたしか小さなセミが鳴きはじめてる頃だよなとなつかしく思い出します。そんな今日の新聞に載ってました、本当に小さなセミ、友人に話をすると、もうこの時期に鳴くのと興味深々といろんな事を話したりしてます。仕事中ですがちゃかり毎日見てます。立松さん今後も引続き頑張ってください。新聞とは関係ないかも知れませんが石垣島の海の様子がカメラで見る事が出きればなと思いました。

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  2. 書かれていること以外にもOpenIDの対応や訂正記事の訂正履歴が見れたりと面白い取組みをしている新聞社ですね。
    参考になりました。

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