2008年3月28日金曜日

シンポ「メディア利用の変化にどう対応していくのか」(1)

左からヤフーバリューインサイト・西部氏、大日本印刷・中島氏、電通総研・藤井氏
 日経メディアラボは3月12日、「メディア利用の変化にどう対応していくのか」と題したシンポジウムを都内で開催した。メディア利用に関する調査研究を手掛けている電通総研(東京・港)と大日本印刷、日経メディアラボと共同調査をしたヤフーバリューインサイト(東京・港)からパネリストを招き、人々のメディアの使い方の変化に対する見解や、その背景などについて討論してもらった。



(写真は左からヤフーバリューインサイトの西部君隆氏、大日本印刷の中島良彦氏、電通総研の藤井良彦氏)






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▼この日の登壇者は以下の通り。
・電通総研取締役・藤井良彦氏
・大日本印刷C&I事業部マーケティング情報開発室室長・中島良彦氏
・ヤフーバリューインサイト リサーチ&コンサルティング本部リサーチャー・西部君隆氏
・日経メディアラボ研究担当部長・種村貴史
(司会は日経メディアラボ所長・坪田知己)


 シンポジウムではまず(1)日経メディアラボとヤフーバリューインサイト、(2)大日本印刷、(3)電通総研の順で、各社の調査結果や見解を紹介した。


「ネット利用、”読むだけ”の人々が増加」


 日経メディアラボとヤフーバリューインサイトは、20~50代の男女ネット利用者を対象に2007年11月末に実施したネット調査の結果を説明した。
(→詳しくは日経メディアラボ「2008年のメディア予測」)


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 CGMの活用度の違いによって、利用者を5つのグループに分類。今後はサイトを閲覧するだけの「ROMマジョリティー」層が増えていく可能性を指摘した。「情報受発信族」「ブロガー」の中からネット上での情報発信に疲れたり飽きたりした人が「ROMマジョリティー」に流入する一方、調査時点で最も多かった「情報未活用族」の中からもITリテラシーが上がって「ROMマジョリティー」に”昇格”する――というシナリオだ。


 日経メディアラボでは過去の別の調査の結果から、「インターネットの普及により、自分の欲しい情報を自分で収集し、自分からも積極的に情報発信する人が増えていく」という仮説を立ててきたが、今回説明した調査では逆の結果が出た。


「コミュニケーションする生活者・しない生活者」


 大日本印刷・中島氏は2001年から続けている「メディアバリュー研究」を紹介した。生活者が買い物をするときの情報収集に焦点を当てて、インターネットやテレビ、新聞、折込チラシなどの使い分けなどを調べている。
(→詳しくは大日本印刷「メディアバリュー研究」)


 ここ2~3年の新しい傾向として、「コミュニケーションする生活者としない生活者が二極分化してきた」ことを指摘。インターネットの口コミサイトやSNSの登場やメーカーサイトの拡充などで情報収集の選択肢が広がった反面、情報が氾濫するなかで自分に入ってくる情報を自分で制限する生活者が登場してきたという。


 ただ、商品分野によって情報収集のタイミングや方法が異なるうえ、同じ生活者でも関心を持っている商品と持ってない商品では情報収集が異なる。例えば洋服に関心のある人は店頭で店員から聞いた情報で購入を決定し、関心ない人は家族のアドバイスで決める。パソコンに関心のある人は購入前にインターネットで比較検討し、関心ない人は店頭で店員の話を聞いて選ぶ。


「メディアに対して能動的なシニア・受動的な若者」


 電通総研・藤井氏は世代によるメディア利用の違いに着目。おおよそ昭和43年(1968年)生まれを境に、それより上の世代はメディアに対して能動的に接触するが、下の世代はメディアを環境の一部として受動的に接触していると指摘した。さらに、おおよそ22歳以下の世代は、子供のころから携帯電話やパソコン(インターネット)が身近にあり、上の世代とのメディア体験に大きな違いがあるとした。

(藤井氏のその他の発言要旨)
・世代が若くなるほど、メディアに「正しいこと」よりも「自分にとって楽しいこと」を求めている。年齢の高い世代はニュース=世の中の動きだが、若者にとってはニュース=自分の関心があることに関する最新情報。ニュースを読む媒体の違いだけでなく、ニュースの中身から異なっている。

・世代にかかわらず、以前は1対1だった生活者とメディアの関係が変化。電通総研の調査で「テレビを見ながらネットをする」人が8割近くを占め、1人が同時に複数メディア(平均3.83)と接触するのが基本になっている。ネットとテレビは敵対する関係ではない。

・メディアのビジネスモデルについては、ロングテールの需要を満たすサービスは少数のマニアから利用料を受け取る完全有料モデル、対極にあるショートヘッド(マス)のサービスでは無料モデル、と二極化が進む。課金と広告収入を併用するメディアは有料モデルか無料モデルに移行する必要が生まれる。

・情報はあって当たり前のもの、特別なものではなくなった。情報のコモディティー化(日用品化)が進むなかでは、情報の中身よりも「パッと見て面白いかどうか」が重要だ。典型的なのはテレビで流行っているIQクイズ番組。いかにも答えられなさそうなタレントが難しい漢字を読めたり、大学の先生が単純な計算を間違えたりする様子を面白く組みあわせて間を持たせるところがコモディティーとしてのテレビの強みだ。



2008年3月6日木曜日

「地域社会にガッチリ食い込む」――河北新報のSNS「ふらっと」

河北新報社の佐藤和文氏
 東北地方でブロック紙を発行する河北新報社(仙台市)のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「ふらっと」が来月、開設1周年を迎える。地域密着型のSNSが全
国各地に登場しているが、新聞社がSNS運営に乗り出す事例はまだ珍しい。河北新報社の佐藤和文メディア局次長兼ネット事業部長=写真=に、新聞社がSNSを運営する狙いやメリット、「ふらっと」の現状などを聞いた。



――「ふらっと」の現状は


 2007年4月17日にオープンし、約3000人が会員登録している。SNSの中で120~130のコミュニティー(会員が自由に設置できるテーマ別の掲示板)が設置され、毎日約30本の「ブログ」(注・外部のブログ開設サービスではなくミクシィ、グリーなどの「日記」にあたる機能)が更新されている。SNS開設当初は1万人を目標に掲げたが、運営してみると、今の規模で十分ではないかという実感もある。


 1000万人を超す人々がミクシィを利用する時代だが(2008年1月末時点のミクシィ会員数は1333万人)、自社でSNSをやってみると「SNSの使い方が分からない」という人が結構多い。「SNSのことはよく知らないが、河北新報が新しいことを始めたから」と、ふらっとに集まってくれた人もいる。当社の運営担当者も「ふらっと」に参加して、一般の会員と一緒にコミュニティーを盛り上げているところだ。


「ふらっと」のトップページ
 公募で選んだ一般の人に自分が住んでいる街のことを書いてもらう「街角ブロガー」(2008年3月5日時点で12人が執筆中)や、SNS内のブログと外部のサイトで書かれたブログのなかから面白いものを選んで紹介する「ブログ交差点」(同3月6日時点で164ブログ)などの企画を展開している。世間には新聞記者よりも専門分野に詳しい人がたくさんいる。その人たちの情報発信を支援することも、新聞社の仕事の一つになっていくのではないかと思っている。

――SNSを始めた狙いは


 (新聞離れが叫ばれるなかで)地方紙が生きていくためには、地域の人々とフェース・トゥ・フェースの関係を築き、地域社会にガッチリと食い込んでいくシナリオをつくっていくことが必要だ。


 まだ紙の新聞の編集局はネット活用に消極的だが、今後、紙面づくりにネットを活用したくなったときに使える環境を整えておきたい。ふらっとの会員でない人もSNSの中のコンテンツを見られるオープン型のSNSにしたのは、そのためでもある。今後は編集局と共同で、時事ニュースについて議論できるようなコミュニティーをつくりたい。


――新聞社がSNSを運営するメリットは


 ふらっと開設前は、いろいろな人から「(利用者が自由に投稿できる)SNSで、投稿が荒れたらどうするんだ」と言われたが、実際には荒れる事態は起きていない。「新聞社が運営しているSNS」というステータスが安全装置として働いているのではないだろうか。


 積極的に地元を盛り上げようと考えている人たちとのつながりを作りやすいのも、新聞社が運営する利点の一つだ。例えば、宮城の日本酒をPRしようという人がSNSのコミュニティーに集まっている。


 新聞社の運営ということで、地元自治体との連携も生まれている。2007年10月から、仙台市がごみ減量のPRに、ふらっとのブログ機能を活用している(「セツコさんのワケル塾」)。自治体にとっても、新たな予算を使わずに済む利点がある。


■関連リンク
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