2005年12月16日金曜日

「来年はコックピット型の個人サイトが登場」

Medialab 日本経済新聞社の研究機関、日経メディアラボは15日、来年のメディアに関する展望をまとめた「メディア予測2006」を発表した。ブログ(日記風の簡易型サイト)などの更新情報を配信する規格「RSS」が普及し、インターネットから必要な最新情報を選別して個人のサイトに表示する「コックピット(操縦席)型」=イメージ写真=情報収集が一般化すると予測する。 









ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)はブログだけでなく、ニュースサイトなどからもRSS配信の仕組みを使って幅広くコンテンツ(情報の内容)を集められるようになると見ている。SNSの利用者が持つ個人サイトは気圧や飛行高度などが計器板に表示される飛行機の操縦席のように情報が集まるため、利用者は仕事や生活に必要な情報をチェックしながら、日程管理や行動の意思決定が可能になる。





操縦席型の個人メディアが普及する影響については、ポータル(玄関)サイトから情報を検索するネット利用者が減少し、検索エンジンの影響力が減少する可能性があると分析。個人サイトが発信した情報が別の個人サイトに伝わる口コミを活用したマーケティングも活発になると見ている。操縦席型の個人サイトを外出先で閲覧する需要が増えることから高速通信機能を備えた携帯情報端末(PDA)もヒット商品になると予測している。


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2005年12月15日木曜日

楽天、10代の若者向け販促サイト

Girls 楽天は10代の若者向け販促サイトを相次いで開設する。14日に15-19歳の女性を対象にインターネットで衣類や装飾品を販売する「楽天市場girls」をオープン。来春にも男性向けサイトを立ち上げる。雑誌と連携して、顧客を販売サイトに誘導するなどネットと他媒体を組み合わせた販促活動も展開する。テレビとの連携については「TBSに限らず、可能なところがあればぜひ、やりたい」(三木谷浩史社長)としている。










「楽天市場girls」は300-1万円の低価格商品を1万5000品目そろえた。これまで同社の顧客は30代が中心だったが、若者のネット利用が携帯電話を中心に増えているため、新たな顧客層として開拓できると見ている。10代の顧客層への販売額は現在、月間5億-6億円程度。新しい販促サイトの展開により、30億円以上にしたい考えだ。



新サイトでは10代の女性モデルを起用し、衣類やカバンの組み合わせを提案するコーナーも用意した。三木谷社長は同日の記者会見=写真=で「コンテンツ(情報の内容)とショッピングを絡め合わせる手法は特定のターゲットを絞るならば向いている」と述べた。






2005年12月8日木曜日

慶大DMCなどがクリエイティブ産業政策フォーラム開催

Ko 慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC)、コンテンツ政策研究会、日経メディアラボは6日、コンテンツ(情報の内容)産業に関連した政策を共同研究する「クリエイティブ産業政策フォーラム」を開催した。初会合ではコロムビアミュージックエンタテインメントの廣瀬禎彦社長=写真=が「メディア融合と音楽業界」をテーマに講演。金正勲慶大DMC助教授、コンテンツ政策研究会幹事の中村伊知哉スタンフォード日本センター研究所長らがコンテンツ政策のあり方をめぐって議論した。























コロムビアの廣瀬社長は「メディアの枠組みがコンテンツを決める」と強調。インターネットがメディアの変化をもたらし、ネット配信が普及したことに関連して「P2P(ピア・ツー・ピア)がコンテンツ流通にとっては進んだ方法になる」と指摘した。慶大の金助教授は「クリエイティブ産業政策フォーラムを通じて、コンテンツ政策を議論するための理論的なフレームワーク(枠組み)を提供する」と表明。中村氏は米国、韓国など各国のコンテンツ政策を比較し、日本が政策的な基本スタンスを明確にする必要があると主張した。





日経メディアラボの坪田所長はコンテンツ流通を活発にさせて、コンテンツの創造活動を循環させる社会モデルを提言した。フォーラムの初会合には産学官の関係者50人が参加した。













2005年12月6日火曜日

韓国サイワールド、日本上陸 初年度売上高は4億円

Yu_1  ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の韓国最大手「サイワールド」が5日、日本でのサービスを開始した。SNSを運営するSKコミュニケーションズ(ソウル)の日本法人は2006年12月末までに200万人の会員を獲得する計画。収益の柱はユーザーのミニホームページを装飾する壁紙やBGM(バック・グラウンド・ミュージック)の販売収入で、初年度に4億円の売上高を見込んでいる。バナー広告は掲載しない方針。広告収入が中心の日本企業とは異なる戦略で、「ミクシィ」など国内の先行SNSを追撃する。



















SKコミュニケーションズの兪賢午(ユ・ヒョンオ)社長=写真=は5日、東京都内で記者会見し「最終的には米ヤフーや米グーグルを乗り越えて世界のトップレベルを目指したい。この夢に向かって進むときに日本市場は重要だ」と述べた。同社は韓国のほか、6月には中国でもサービスを開始しており、11月末時点で100万人の会員を獲得している。来年は米国、台湾でもサービスを開始するほか、香港、東南アジア、欧州でもサービスの準備に入る方針だ。





日本ではSKコミュニケーションズの日本法人、日本サイワールド(東京・渋谷)が今夏にベータ版(試作版)のサービスを始めていた。同社の李東炯(イ・ドンヒョン)代表は「実生活をそのままネットに移したゲーム感覚があり、人間の感情に訴えるサービスが既存のSNSとは一線を画する」と強調。見せたい人にだけコンテンツ(情報の内容)を閲覧可能にする「フォルダ別公開管理機能」、スキンと呼ばれる壁紙やBGMを好みに合わせてミニホームページに装備できる機能などが日本の先行SNSに対する優位性だとしている。





SKコミュニケーションズは韓国の携帯電話最大手、SKテレコムのグループ会社。サイワールドは1600万人の会員を獲得しており、韓国では国民の3人に1人が使っているといわれるほど浸透している。自分の「個人メディア」であるミニホームページを演出するために、電子マネーを使って仮想ギフトショップで買い物をする感覚は電子商取引になれた日本のユーザーには理解しやすい面もあり、日本のSNSに影響を与える可能性もある。日本サイワールドはバナー広告の掲載はしないものの、ミニホームページを企業のプロモーション手段として提供するとしており、企業の販促ツールとして活用される場合もありそうだ。













2005年12月1日木曜日

TBS、楽天を寄り切る

Picture_2 TBSと楽天は30日、両社の経営統合提案をめぐる問題で和解し、資本・業務提携の協議を開始することで合意した。両社トップが別々に記者会見=写真=して発表した。楽天は経営統合の提案を取り下げた。100ページ以上の提案書を用意して臨んだ業務提携についても、オンライン放送、電子商取引、ポータル(玄関)サイト、その他事業の4項目について協議するという内容に集約された。ライブドアに続いて楽天が仕掛けた「メディア攻防戦」の第2幕はTBSが楽天を寄り切る格好になった。













「来年、インターネットと放送の融合が100%進むわけではない。まずはゆっくり話し合いたい」。スピード経営を標榜する楽天の三木谷浩史社長は同日の記者会見で、普段の三木谷氏らしくない発言に終始した。「誠意として10%分の株を(楽天がみずほ信託銀行に)信託するが、本当は全部、(楽天が保有する)株は手放して欲しい」などと本音を織り交ぜる余裕を見せるTBSの井上浩社長とは対照的だった。





20%近いTBS株を取得して主導権を握る格好で臨んだ経営統合の交渉だったが、楽天は具体的な話し合いに入ることもできず、ひとまず経営統合の提案を撤回することになった。近く両社は「業務提携委員会」を発足させて、提携を模索するが、楽天のTBSに対する出資比率の駆け引きが続くため、事業提携が具体化するかは不透明だ。ライブドアとフジテレビが和解の条件として設置した「業務提携推進委員会」は大きな成果もなく、今月ひっそりと解散した。





三木谷社長は両社で提携協議が始まることを「前進」と強調しているが、業務提携の検討は2月にTBSの井上社長と会談してから着手しており、50日間の攻防を経て振り出しに戻った感もある。業務提携委員会では楽天側のチーフ役を三木谷社長自らが務めるなど、TBSとの協業には意欲的だが、複数企業との提携を進める方針のTBSに対して、楽天が提携交渉で主導権を握れる可能性は低いと見られる。





「融合といいたいところだが……」。三木谷、井上両社長が調印した覚書はまず「放送とインターネットの連携を実現するために真摯に協議・検討を開始する」と書いてある。ネットと放送の「融合」という三木谷社長の持論は封印されていた。メディアの将来像をめぐる見解すら一致せず、出資比率問題を抱えたままでは両社が現実的な戦略を打ち出せる可能性は高まらない。「世界に通用するメディアグループ」を提案した楽天が、その目標を実現するためにはTBSだけに固執してはいられないはずだ。




























2005年11月29日火曜日

産官学でコンテンツ政策提言へ--研究会が発足

Mrichiya コンテンツ(情報の内容)産業の振興に関する政策提言をする産官学連携組織「コンテンツ政策研究会」が28日発足した。デジタルハリウッド東京本校(東京・千代田)で同日開催した設立総会で、幹事の中村伊知哉スタンフォード日本センター研究所長=写真=は「コンテンツ政策研究会を政策提言のためのコミュニティーとして運営する」と表明。政府のコンテンツ政策を評価するほか、コンテンツ政策を研究する大学・研究機関向けの教材を開発するなどの活動方針を決定した。



Contents コンテンツ政策研究会には産官学の各方面から124人が参加した。設立総会=写真=の後も、随時参加者を募集するという。呼びかけ人となった杉田定大・内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官は「政策に反映できる提言があれば、反映していきたい」と述べ、コンテンツ政策研究会への期待感を示した。大学・研究機関側からは金正勲・慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構助教授が参加し、大学・研究機関が政策効果の評価・測定方法を確立するための活動を積極化する考えを強調した。



産業界からはコロムビアミュージックエンタテインメントの廣瀬禎彦社長が「コンテンツ振興基金」や「コンテンツ活性化税」などを創設して、コンテンツ振興政策のための財源を確保するなどの提言をした。


2005年11月17日木曜日

TBS、スポット苦戦で業績下方修正

TBSは16日、2006年3月期の連結経常利益が前期比34%減の145億円になる見通しと発表した。テレビのスポット広告収入が当初予想を下回るほか、プロ野球球団、横浜ベイスターズの赤字を埋め合わせる「支援金」が発生するため、売上高や経常利益の当初予想を下方修正した。スポット広告の苦戦については「構造的な問題としてテレビを取り巻く環境が変わっているのか、現場で判断をする検討に入っている」(平本和生常務)としており、対応策を打ち出す方針を示した。












売上高は3030億円の予想を3006億円に下方修正した。同日の中間決算記者会見で、平本常務はスポット広告低迷などの収益環境の変化に関して「この10年の流れでは一番厳しい。この時期だけで、V字回復を果たせるのか、自信を持って答えられない」と述べた。インターネットやデジタルビデオレコーダー(DVR)の普及の影響については「統計的に見て、影響を受け始めているのかはテレビ業界全体の研究テーマだ」と指摘。そのうえで「新しい事業について総合的に計画を立てている。テレビ産業以外の事業も急いで計画を策定していく」と強調した。



TBSは筆頭株主の楽天から経営統合の提案を受けており、今月中に回答する方針。平本常務は同問題と業績の下方修正は関係ないとしている。楽天はネットの電子商店街事業で構築した顧客データベースを活用して広告価値を向上させるなどの提案をしているが、TBSは楽天の提案を受ける前から独自にネット関連事業を展開している。売上高は9月中間期で10億円規模になっているが「1カ月分のテレビスポット収入と比べても小さい。望みを託している部分ではあるが、試行錯誤の段階」(経理部)という。



今回の業績下方修正で経常利益は180億円の予想を145億円とした。横浜ベイスターズへの支援金は12億円となる見込みで、広告宣伝費としてテレビ部門のコスト増加要因になるが「球団を保有する価値は高く、今後とも支援する。球団の売却はしない」(平本常務)と説明している。村上世彰氏が率いる投資ファンド、MACアセットマネジメントとの関係については、村上ファンド側から株主名簿の閲覧請求があり、拒否したことを明らかにした。








2005年11月16日水曜日

ネット広告の好調続く 電通と博報堂DY

インターネット広告の市場規模は2005年度下期に50%程度の成長率を維持しながら拡大する見通しだ。電通は2005年9月中間期にネット広告の売上高が前年同期比58%増の197億円に達した。博報堂DYホールディングスも前年同期比48%増の62億円となり拡大基調が続いた。両社はそれぞれ「下期も60%は伸びる」(電通の釜井節生取締役)、「下期も同じ傾向が続き、5割弱の伸びになる」(博報堂DYの保科伸夫専務)との見通しを示している。











電通のシンクタンク会社である電通総研が7月にまとめた試算によると、ネット広告費は2005年に前年実績と比べ、5割増の2722億円に達する見込み。07年には雑誌の広告費を上回り、テレビ、新聞に次ぐ広告媒体に成長するとの見方もある。電通と博報堂DYが2005年度後半もネット広告費の順調な伸びを見込んでいることは、市場規模が予測通りに拡大していることをうかがわせる。





電通は2005年3月期にネット広告の伸び率が30%だった。今期は10月以降も60%の成長率を見込んでおり、市場拡大は加速しているもようだ。総広告費に占めるネット広告費の割合は3%程度。急成長が続いているものの、「今のところマスメディアが影響を受けるという状態にはなっていない」(電通の釜井取締役)との見方が支配的だ。

















2005年11月11日金曜日

再びグーグルゾンを読み解く(1)「グーグルゾン」誕生前夜

インターネット企業とメディア企業の覇権争いが相次ぐ2005年。変化のスピードが加速するメディアの未来を考えるヒントとして、「EPIC2014」と題するSF短編映像が昨秋から今春にかけて日本のメディア業界に伝わったことは記憶に新しい。この映像作品に登場する米国のグーグルとアマゾン・ドット・コムの幹部がこのほど相次ぎ来日。両社の戦略が伝わるにつれ、「EPIC」を再検証する必要性も浮かび上がってきた。今春に続いて、再び「グーグルゾン(Googlezon)」の物語を読み解いてみる。



日本経済新聞社などが10月に開催した「世界経営者会議」。グーグルのエリック・シュミット会長兼最高経営責任者(CEO)は会議の席上、世界中の書籍を電子化する構想について「本を無原則にコピーさせるつもりはなく、検索により埋もれていた本の購入を促すのが目的だ」と力説した。「電子図書館」計画は一部の出版社が反発しているものの、シュミット氏は強気な横顔をのぞかせる。EPICに登場する架空企業のグーグルゾンは米ニューヨーク・タイムズと著作権をめぐる係争を最高裁まで繰り広げるタフな企業として描かれているが、グーグルゾンの前身にあたるグーグルも現実の世界で攻めの姿勢を崩さない。


埋もれていた過去の出版物の販売を促進するという戦略は、グーグルゾン物語のもう一つの主役、アマゾンの姿と重なり合う。アマゾンは顧客の購買履歴に基づくレコメンデーション(推薦)機能を武器に、売れ筋商品以外も薄く広く売り込む「ロングテール商法」を確立し、成長を続けてきた。グーグルはアマゾンのように物流機能も抱え込んだ物販にまでは踏み込まないが、得意分野の検索技術を活用して販売促進の分野に切り込んでいく方針だ。あらゆる電子化された情報を束ね、閲覧者のリーチ(到達)を極大化することで広告収入を増やすという従来の戦略一辺倒ではなくなる兆しを見せる。


Amazon_1  グーグルのシュミット氏が講演した3日後の10月28日。アマゾンのカル・ラーマン上級副社長=写真=も東京都内で講演し、書籍の電子化に関連した新サービスを日本でも始めると表明した。アマゾンジャパンは講談社など280社の協力を得て、キーワードによる検索で本の中身をネットで閲覧できるようにした。このサービスは米国で2年間の実績があり、米アマゾンは来年からは書籍のページを「立ち読み」するだけでなく、必要なページがあれば、ページ単位で購入できるようにする。書籍を配送するビジネスだけでなく、テキストのコンテンツ(情報の内容)をネット配信する事業に本格参入する構えだ。


検索したコンテンツをネットで提供する手法はグーグルの狙う事業領域と重なり合う。グーグルのアマゾン化、そしてアマゾンのグーグル化――。「EPIC」は両社が合併して新会社「グーグルゾン」が誕生するという話だが、実際に両社が合併するかどうかを議論することに意味はない。コンテンツをかき集めて、提供することで圧倒的なリーチを誇るグーグル。書籍以外にも幅広い商品を扱い、消費者の購買履歴を握るアマゾン。両社の強みを合わせ持つ「グーグルゾン」型企業こそが、メディアとして、マーケティングの巨大システムとしてネットの覇権を握るという現実を重視すべきなのだろう。


Raku_1 最近、日本で「グーグルゾン」志向を強めている典型的な企業は楽天だ。グーグル型の検索ポータル(玄関)サイトも手掛けているが、リーチは国内トップのヤフーに及ばない。楽天のグーグルゾン志向はアマゾン型企業のグーグル化という構図。三木谷浩史社長=写真=は常々、「3000万人の会員データベースが強み」と力説している。TBSとの経営統合構想をめぐっては楽天のポイント制も活用しながら、番組や広告を個々の会員にレコメンデーションする戦略を打ち出している。リーチを極大化できる展望が開ければ、顧客のニーズを個別にきめ細かく刈り取れる会員データベースが強みを増すことになる。


グーグルの圧倒的なリーチ、アマゾンの膨大な消費履歴データ。この2つを握る「グーグルゾン」型企業は「不特定多数」の相手にコンテンツを一方的に送り出すだけのマスメディアとは根本的に異なる事業基盤を持つ。顧客データベースを活用して「特定多数」の顧客に対して個別にコンテンツをフィード(提供)するインフラを握るからだ。楽天は単に映像コンテンツの確保を狙ったのではなく、楽天・TBS連合軍でリーチを極大化しようと呼びかけたはずだったが、資本をめぐる攻防戦に陥り、構想は暗礁に乗り上げている。


「3年後に三木谷の言っていることは正しかった、ということになる」。三木谷社長はメディアの未来を見据えた主張に自信を見せる。「消費者はネットで買い物をするようになる」という仮説を現実の話にしたビジョナリー(予言者)としての自負心もあるのだろう。北京五輪開催などが予定される3年後、デジタル家電は日本の各家庭に本格的に普及すると見られている。メディア企業やネット企業が本格的なデジタル時代への布石を打とうとしているとき、「EPIC」はこう語りかける。2008年、グーグルゾンが誕生する。


2005年11月2日水曜日

書籍の中身検索に講談社など280社が協力

インターネット通販大手のアマゾンジャパン(東京・渋谷)は1日、書籍の中身をネットで検索できるサービスを始めたと正式発表した。講談社、PHP研究所など280社の出版社が協力。キーワードで書籍を検索し、本のタイトルだけでなく、文中にキーワードが含まれている書籍を探して、そのページを閲覧することができる。検索が可能な書籍は13万冊。



米アマゾン・ドット・コムは2003年10月に同様のサービスを始めている。日本でのサービス名は「なか見!検索」。過去にアマゾンジャパンを利用して商品を購入した実績があるユーザーが新サービスの対象になる。キーワード検索で探したページと前後の2ページを含めて合計5ページを無料で「立ち読み」できるため、ユーザーは書籍の中身を確認してから購入することが可能になる。


ユーザーによっては、5ページ分を無料で読むだけで満足して、購買には結びつかない場合もあるが、2年間の実績がある米国では、書籍の内容への理解が深まり、結果的に書籍の拡販につながっているという。アマゾンジャパンは今後も出版社との関係を強化して、検索可能な書籍を増やしていく方針だ。


「ガチャガチャ」が販促用の広告手段に

Gacya 人材派遣、託児所運営を手掛けるビーンズパートナーズ(さいたま市、神山和輝社長)は1日、商業施設の託児所を活用して、子育て世代の主婦層を対象にしたマーケティング支援を始めた。商業施設の特売情報やクーポン券、サンプル商品の引換券を「ガチャガチャ」=写真=と呼ばれる自販機のカプセルに入れて託児所を訪れる母親に無料で提供する。第1弾としてダイエー大宮店(さいたま市)が導入を決めた。



カプセルには幼児向けの菓子類も入れてあり、託児所のスタッフがダイエーで買い物をする母親に100円玉を手渡して「ガチャガチャ」のカプセルを受け取るように勧める。このため不特定多数の来店客に特売情報のチラシを配布するよりも、来店した母親の顧客が幼児を預けている時間に化粧品販売店などに立ち寄る可能性が高まると見ている。


託児所が入居している商業施設のテナントなどに広告媒体として売り込む。カプセルに入れるチラシ類は30枚で1万5000円。ビーンズは託児所の運営をダイエーから受託しているが、これとは別に販促支援が新たな収入源になる。ガチャガチャのカプセルを販促用の広告媒体に活用する例は珍しい。


2005年10月29日土曜日

ユーザー志向の果てに 「グーグルゾン」の予感

アマゾン・ドット・コムは「顧客第一」。グーグルは「ユーザーの役に立つために」。10月28日、日経BP社が主催する「WPC EXPO 2005」の基調講演に米国を代表するインターネット企業の両雄が登場し、両社の講演者はそれぞれこんな企業理念を力説した。ネット社会の未来を描いた短編映像「EPIC 2014」で「グーグルゾン」という言葉が紹介されてから1年。両社を結びつける共通のキーワードとして「ユーザー志向」が浮かび上がった。



P1000005_1アマゾン・ドット・コムは①価格②利便性③品揃え――を向上することにより、ユーザーが快適にショッピングできる環境を整えることに注力している。「この原則は社員全員のDNAに入っている」(カル・ラーマン上級副社長=写真)としており、社内でも顧客第一の考え方を徹底している。「送料を無料にすることはかなりの経費増になっている」(ラーマン副社長)としながらも、送料無料の条件を満たすことがリアルな店舗に対抗するための重要なポイントになっている。 


P1000021_bグーグルは「世界中のあらゆる情報を整理し、世界のどこからでもアクセス可能にして、ユーザーに役立つようにする」(マグラス・みづ紀エンジニアリング・ディレクター=写真)という使命を自らに課して、多様なサービスを開発している。ユーザーの利便性を最重要視して開発した登録者向けのサービス、多言語に対応するグローバルなサービスはこの使命に基づくものだ。マグラス氏は「個人情報の問題があり、パーソナルなサービスは全てオプションだが、ユーザーから受け入れられた」と強調。ユーザー志向のサービスのためにユーザーが個人情報を開示することを気にしていないとの方を示した。


両社が合併して誕生するというグーグルゾンの物語は「EPICは私たちが求めたものであり、選んだものである」と語りかける。現実に両社は共通のキーワード「ユーザー志向」を掲げて成長中だ。「EPIC2014」はユーザーの限りない欲望を技術革新によって満たし続けた結果、創り出される「EPIC」というモンスターの姿を逆説的に描き出していた。グーグルとアマゾンが掲げる企業理念に改めて耳を傾けると、「EPIC」が現実に登場する日を思い起こさせる。


米アマゾン、日本でも書籍の中身を読めるサービス

インターネット小売業最大手の米アマゾン・ドット・コムは年内をメドに書籍の中身を検索できるサービス「サーチ・インサイド・ザ・ブック」を日本で始める。キーワードを含む書籍のページを探し出して、ネットで一部を読めるようになるため、書籍の内容を確認してから購入することができる。来日中のカル・ラーマン上級副社長が28日、パソコンの展示会「WPC EXPO 2005」(主催・日経BP社)の基調講演で明らかにした。



「サーチ・インサイド・ザ・ブック」は2003年に米国市場で開始。題名と著者名で書籍を探すだけでなく、ユーザーが関心を抱いている内容かどうか中身を読んで選べるため、書籍の販売拡大につながったという。カル・ラーマン上級副社長は新サービスについて「調べたい言葉が本の中で、どういう文脈で出てくるのかを見つけることができる。日本でも、このサービスをもうすぐ立ち上げる」と述べた。



米国以外では、英、独、カナダで同サービスを提供しており、日本は5カ国目になる。アマゾンジャパン(東京・渋谷)は現在、国内の複数の出版社と書籍の一部の内容をオンライン化する交渉をしている。


2005年10月27日木曜日

「きっかけはGyaO(ギャオ)の出現」楽天社長

R_2 「GyaO(ギャオ)の出現は大きなポイント」――。楽天の三木谷浩史社長は26日の記者会見=写真=で、TBS株の買い増しにより両社の経営統合を急ぐ考えを強調し、映像配信事業への意欲をにじませた。USENのインターネットによる無料の映像配信サービス「ギャオ」を引き合いに出して「ギャオが成功すれば、競争相手になる」と指摘。約半年で250万人の会員を集めたギャオの台頭が、ネットと放送の融合をにらんだ経営統合を目指すようになった背景にあることを明らかにした。









三木谷社長は昨年8月からテレビ放送との連携を検討し始めた。同日の記者会見では「確かに2年前は(ネットと放送の融合に)懐疑的だったが、光ファイバーの普及と『ショウタイム』の成功で(融合の)流れを強く感じた」と述べた。ショウタイム(東京・渋谷)は2001年に有線ブロードネットワークス(現USEN)と楽天が共同で設立した動画配信サイト運営会社。映像を見るには毎月の会費と一作品ごとの視聴料が必要になる。一方、USENは今春、無料のギャオをスタートさせて急速にユーザーを増やしている。目標は1000万人としており、動画配信の市場拡大をけん引している。





三木谷社長は28日にギャオのインタビュー番組に出演する。「敵に塩を送ることになるが、まだ、ネット放送を見たことのない人にとっては初めて見る番組になる」としており、メディア再編戦略の持論とネット放送の存在感をネット利用者に訴える考えだ。





「目の前に宝の山が隠されている。テレビとネットががっぷりと組むことで機会を得られる」などと三木谷社長がメディア再編の必要性を呼びかけても、TBS側は楽天が230億円を追加投入し発行済み株式の19.09%を握ったことに対して不快感を示しており、事業面でも協力関係を築くことは困難な情勢に陥っている。TBSは株を買い増さないように求めていたが、三木谷社長は「どうして買ってはいけないのか正直言ってわからない」と主張し、要求を突っぱねた格好だ。













大手新聞社が相次ぎポッドキャスト開始

大手新聞社が相次いでインターネットで音声のニュース番組を配信する「ポッドキャスティング」を始めている。日本経済新聞社、毎日新聞社に続いて、読売新聞社も24日に約20分の番組を配信する「読売ニュースポッドキャスト」を開始した。アップルコンピュータ日本法人が集計しているポッドキャストの人気ランキングによると、26日夕の時点では「日経ブロードバンドニュース」が1位、「毎日新聞ポッドキャスト」も22位に入るなどニュース番組が人気を集めている。









「新聞を読まない若者にまず耳から入り、社説やコラムにも触れてもらいたい」――。コンテンツ(情報の内容)配信のオービチューン(東京・新宿)が26日、アップルストア銀座(東京・中央)で開催したポッドキャストセミナーに読売新聞社の担当者が出席し、「読売ニュースポッドキャスト」の狙いをこう強調した。新サービスは米国でポッドキャストが急速に普及したことに注目した同社の若手記者がポッドキャストを活用したニュース配信の実験を提案し、社内で検討を続けていたという。番組は読売新聞の放送用原稿を活用して、オービチューンが制作。平日午前6時に配信している。





担当者の馬野耕至・東京本社メディア戦略局開発部長は「広告モデルのメドが立ったため、新事業に踏み切った」と説明している。バリアフリーサービスの拡大、新聞無読者の紙面への誘導、新たな収益源の開拓――などの目標を掲げ、新聞離れ傾向が強まっている若者にもアピールする。携帯電話を使いこなす若者を読者に取り込むため、携帯電話とポッドキャストの融合も視野に入れて事業を展開する考えだ。





新聞社がポッドキャストに本格参入することで、広告ビジネスの可能性も広がる。オービチューンはポッドキャストとアドバタイジング(広告)を組み合わせた「ポッドバタイジング」という造語を紹介。ポッドキャストに関連した広告市場の拡大に期待感を示した。同社によると、ポットキャストはユーザー主導型の性格が強く、広告のターゲットにリーチしやすい特徴がある。広告料金を1ダウンロードあたりの単価で決められるため、広告主側のリスクは低く、広告主に売り込みやすいという。





ただ、ポッドキャストを新しい広告媒体として期待しているメディア側から見ると、ダウンロード数に応じた料金体系よりも、番組スポンサー枠として売りたいとの思惑もあり、ポッドキャスト関連広告をめぐって、どのような料金体系が定着していくのかは不透明だ。読売ニュースポッドキャストは現在、スポンサーがついていないという。米有力紙のワシントンポストも映像版のポッドキャスト「ワシントンポスト・ドット・コム・ビデオ」を始めたが、当初は広告がない状態。新聞社が手掛けるニュース「ネット放送」は参入企業が増え、音声から映像へのシフトも始まっているため、今後、広告を含めたビジネスの仕組みづくりで各社が知恵を絞ることになりそうだ。

















2005年10月26日水曜日

第2日テレ、CM視聴を条件に「無料」でOKに

Ntv 日本テレビ放送網は27日深夜(28日未明)に開始するインターネットによる有料の番組配信サービスに、CMを視聴した会員ユーザーがポイントを獲得して映像コンテンツ(情報の内容)を購入できる仕組みを導入する。CM視聴を条件に事実上、無料で番組を楽しめることになる。価格は20分程度の映像の場合、99円。短いニュース映像などは9円になる予定。CMを視聴して得られるポイントは1ポイントを1円に換算して、番組を見る代金に充てることができる。クレジットカードやネット電子決済のウェブマネーも利用できる。



ネット配信事業の「第2日本テレビ」=イメージ写真=は会員ユーザーが仮想商店街の福引きに参加すると、ポイントをもらえる仕組みを用意する。CM視聴後に付与するポイント数をパソコン画面に表示する。日本テレビは25日にデモ画面を公開。福引きコーナーでトヨタ自動車の広告を見た後、30ポイントを獲得する様子も紹介した。CM配信のほか、バナー広告も収入源にする。第2日本テレビ事業本部の土屋敏男VOD事業部長は「今の形が永遠に続くのかはわからない」としており、広告手法の検証を続ける考えを強調した。


2005年10月25日火曜日

松井証券、楽天グループを非難--システム障害で

「手数料を下げてデイトレーダーが増えた末にシステムダウン。オンライン証券の業を軽く見てもらいたくない」――。松井証券の松井道夫社長は24日、決算発表の記者会見で、楽天証券がシステム障害を頻発させていることに不快感を表明した。同席した九鬼祐一郎専務も楽天グループが野球や放送などへの多角化を志向していることを踏まえて「松井証券は他社を買収して多角化することなく、本業のシステム増強にまい進する」と強調した。企業トップが名指しで同業他社を批判するのは異例。









楽天証券は24日にもシステム障害が発生。同日午前9時過ぎに「ウェブ、モバイル画面からのログインができない状況を確認しており、原因を調査中」とのコメントを同社のサイトに掲載した。同日夕に完全復旧したと発表しているが、原因の詳細は明らかにしていない。同社は「史上最大の作戦」と銘打って手数料改定を計画していたが、8月以降にシステム障害が相次ぎ、計画は延期している。松井証券の九鬼専務は「顧客にしてみれば、史上最悪の作戦になった」と批判している。楽天証券は松井証券側からの批判について「一方的な発言に対してはコメントしない」(楠雄治執行役員)としており静観する構えだ。





2005年10月22日土曜日

ヤフー社長、楽天の「戦略」を暗に批判

ヤフーの井上雅博社長は21日、楽天のTBSとの経営統合構想に関連して「今日から株を買えば、明日から何でもできるのか。そうではないと理解している」と述べた。TBS株を大量取得して、共同持ち株会社の設立をTBSに要求している楽天の経営姿勢を暗に非難したものだ。楽天のようなテレビ局の「買収戦略」については「考えていない」と言明した。東京証券取引所で記者団の質問に答えた。



これに先立ち決算発表の記者会見では、テレビ番組のネット配信について「特定のチャンネルではなく、全チャンネルの番組を視聴できる環境にしたい」と語り、特定の放送局との資本提携を目指さない「全方位外交」の方針を強調した。その後、投資家向けの説明会に出席した井上社長は「テレビ局の立場からすれば、(楽天と)独占的な関係を築いてもメリットはない」と指摘。「テレビ局にもメリットがある関係をつくれないと、むしろ、(交渉は)進まない」と語り、楽天の構想が実現困難との見方を示した。


2005年10月19日水曜日

メディア攻防第2幕の「鑑賞法」

Mikitani_1 楽天のTBS株大量取得は、新興ネット企業が既存メディアに「待ったなし」の判断を迫っている構図を浮き彫りにした。既存事業を堅持しつつ、ネットの新事業をじっくり育てようと構えていた既存メディアと、先を急ぐネット企業との時間感覚のズレが目立っている。



(関連記事「メディアラボの目」)









「データベースマーケティングの取り組みによる広告の高付加価値化」。楽天が13日、TBSに提出した「世界に通用するメディアグループ設立のご提案」にはこんな文字が盛り込まれている。楽天は仮想商店街の最大手。ネットで買い物を楽しむ消費者のデータを握っている強みがある。放送局の持つ映像コンテンツ(情報の内容)をネットで有効活用すれば、ヤフーにも劣っている集客力を飛躍的に高め、顧客それぞれの嗜好(しこう)に合わせて商品やサービスの価値を伝える「ターゲティング広告」が可能になるとの読みだ。





「広告の高付加価値化」はテレビ局にとって現在最も重要な経営課題だ。今春、野村総合研究所がハードディスク駆動装置(HDD)レコーダーを使った「CM飛ばし」による広告費の損失額は540億円との試算を公表し、電通が猛反発した一幕があった。ただ、広告業界の中にも「CMスキップという視聴行動は間違いなく進む」(博報堂DYメディアパートナーズの中村博メディア環境研究所長)との指摘があり、テレビ局ももはや問題を軽視できない状況に置かれている。





日本民間放送連盟が始めた、8月28日を「テレビCMの日」とするキャンペーンを見た人も多いだろう。「民放のCM開始は1953年。50周年の節目でもないのに、突然、CMの日と言い出したのはテレビ業界が危機感を強めたことの現れ」(電通OBの北野邦彦・帝京大教授)とみられる。もちろんテレビ局は単に危機感を募らせているだけではない。日本テレビ放送網が27日深夜に始めるネットでの番組配信事業「第2日本テレビ」など、ネット事業をテコに放送外収入を増やす戦略を打ち出しているところも多い。





TBSも従来は著作権処理が困難とされていた連続ドラマなども含め、番組をネット配信する事業を計画するなどで無策だったわけではない。ただ、突然登場した筆頭株主の楽天からネットを経営課題としてもっと真正面から受け止めろとにじり寄られ、焦りの色を隠せないのが現実だろう。既存事業を堅持しつつ、ネットによる番組放映という新事業を自社のペースで育てようという戦略は見直さざるを得ない。





楽天がTBSに経営統合を提案した同じ13日(日本時間)、米アップルコンピュータはテレビ番組などの映像を再生できる新型「アイポッド」の製品発表をした。米ABCの人気ドラマなどの映像コンテンツをダウンロードして、好きな時間に視聴できる生活スタイルを提案したのだ。テレビ番組のネット配信が始まろうとしている日本でも、放送がインターネット経由で「ポッドキャスティング」される時代の到来も遠くなさそうだ。





Justfor_3 この日のアップルの発表はビデオ視聴に話題が集中したが、裏で新しいサービスも始まっていた。楽曲の購入履歴をもとに、ユーザーの嗜好(しこう)に合致していそうな別の曲を紹介する「ジャスト・フォー・ユー」=写真=だ。書籍のネット通販大手、アマゾン・ドット・コムと同じ手法で、アップルは「パーソナライズが可能な楽曲レコメンド(推薦)機能」と説明している。





電子書籍やテレビ番組、音楽などをユーザーの好みに応じて提供するコンテンツ配信のプラットホーム(基盤)は、米国メディアの未来を予測した短編映像「EPIC2014」に登場する企業「グーグルゾン」を想起させる。グーグルゾンは広告もユーザーの好みに応じて提供する。「CM飛ばし」も起こりにくいだろう。楽天の映像コンテンツを活用したデータベースマーケティング戦略がこうしたメディアの未来像と重なり合うとき、楽天のTBSへの「ご提案」はTBSから見ても魅力的に映るはずだ。





ただ、楽天とTBSの経営統合構想が実現するには課題が多い。例えば、「放送とネットの融合」についての基本認識の違いだ。楽天の提案には両社の経営統合のメリットを説明するこんな一節がある。「東京放送(TBS)の様々なコンテンツが従来の無線通信という配信手段に加えインターネットを通じて広く提供される」。あえて「放送」を「無線通信」と表現し、通信の一形態と位置づけている。「放送と通信は協力関係にはなるが、融合はあり得ない」(民放連会長の日枝久フジテレビジョン会長)という見解のテレビ業界を挑発するような文言だ。





ニッポン放送の経営権をめぐって争ったフジテレビとライブドアは提携して「協力関係」を模索することで話が落ち着いた。フジテレビ側が「融合はあり得ない」とライブドアを押し切った格好だが、今回の「第2幕」を見ていると、既存メディアと新興ネット企業は「協力関係」よりも、本質的にメディアの覇権をめぐる戦いが避けられないという現実を実感させる。





(山根昭)






































メディアラボの目 「紙とネット」のジレンマ

Sinbun_1  最近、新聞業界でひそかに話題になっている本がある。「新聞がなくなる日」。著者は毎日新聞社の取締役編集局長などを歴任した歌川令三・東京財団特別研究員だ。著書のなかで歌川氏は「2030年に新聞がなくなる」と予測。本業の紙媒体に加え、インターネットによる電子媒体も手掛ける新聞社が「紙とネット」というハイブリッド型の事業展開をする課題を指摘している。









新聞社は1990年代中ごろから「紙とネット」の経営形態を模索し続けている。これに10年ほど遅れる形で、テレビ放送会社も電波を使った放送事業とは別に、ネット関連事業を本格的に立ち上げて「波とネット」というハイブリッド型を強く志向し始めた。既存メディアには「紙」だけで十分に収益を確保できた時代、「波」だけで十分だった時代が少しでも長続きすればいいとの思惑もあったが、ネット媒体の台頭に伴い、ハイブリッド型への移行を急がざるを得なくなったのが実情だ。





「堀江さんに背中を押された格好になった」(フジテレビジョンの村上光一社長)、「ホリエモンに感謝しないといけない。放送事業者の目を覚ましてくれたから」(産業経済新聞社出身の中村啓治・福島テレビ社長)といった声がフジサンケイグループ幹部からは最近、よく聞かれる。ライブドアの「侵攻」を防衛できた安堵感が背景にあるとはいえ、半分程度は本音の発言かもしれない。





「ネットが既存メディアを殺す」とばかりにテレビ局の買収を仕掛けたベンチャー経営者の登場に、今春、多くのメディア企業が不快感を示した。ライブドアの堀江貴文社長に指摘されるまでもなく、ネット時代を見据えた準備は粛々と進めてきたという自負がテレビ側の経営者にはあったためだ。ただ、メディア関係者の多くは粛々と準備をしながらも、想定していたロードマップ(行程表)が前倒しになりつつあることを感じている。





「著作権の問題なんて実はしっかり手続きを踏めばクリアできる。そうしないのは、まだネットが大きなビジネスになる時期が到来しないないと判断しているからだ。その時期になれば、いつでもクリアできる」。これまでテレビ局の番組ネット配信をめぐっては、著作権問題が難関になるとされてきたが、最近は放送局首脳からはこんな発言も漏れてくる。そして各社はネットが大きなビジネスになる時期を見据えて、「波とネット」型に踏み出し始めている。





新聞社が「紙とネット」の2本柱を目指し10年経過しても、紙媒体が主力で、ネット媒体は補完的な事業という状況に変化はない。ただ、現在、新聞は紙媒体から電子媒体に経営の軸足を移していく過渡期に入っているとの見方もある。その完全なシフトがいつになるのかは不透明だが、歌川氏の「2030年説」のように具体的な時期を予想する動きも、現に新聞関係者の中から出ている。





韓国では市民から記事を募集するネット新聞が成功して、既存の新聞社は相対的に影響力が低下している。米国ではポータル(玄関)サイト大手のヤフーが新聞やテレビの人材を引き抜いてメディア企業としての布陣を固めつつある。「ネットは新聞を殺すのか」などの著作がある時事通信社の湯川鶴章編集委員は「ポータルとメディア企業の衝突は避けられない。この動きは日本にも飛び火する」と見ている。





新聞やテレビなどの既存メディアは現在の主力である既存事業を堅持しつつ、ネットにいつ、どのように軸足を移していけばいいのか難しい判断を迫られている。一気にネット事業に踏み込んでも、新聞やテレビ局が運営するサイトの集客力は主要なポータルサイトと比べて見劣りする。世界を見渡せば、韓国のインターネット新聞「オーマイニュース」、米ヤフーのような新しいメディアと既存メディアの攻防が激化している。





歌川氏の著作は既存のメディアがネットと向き合うとき「カニバリズム」が課題になると指摘する。新聞は既存事業(紙)と新規事業(ネット)の共食いというジレンマに陥っていると分析し、新聞業界に対して「新しい自分を確立するために旧い自分を食ってしまうことができるのか」と問いかける。既存のメディアがネットを経営資源として有効活用できる新しい業態を目指すとき、最大の敵は自分自身かもしれない。

































2005年10月14日金曜日

東京の繁華街に巨大なQRコードが出現

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東京・新宿駅前ビルの壁に巨大なQRコード(二次元コード)が登場した。正体はノースウエスト航空の屋外広告で、「トラベル川柳キャンペーン」への誘導のためのQRコードである。縦9.17メートル、横10.94メートルのクリエイティブは、「QRコードを主とした屋外媒体のキャンペーンとしては最大級の大きさ」(広告を扱ったマインドシェア・斎藤謙一シニアプランナー)で、通りがかる買い物客の目をひいていた。



ノースウエスト航空は、QRコードが目立つユニークなクリエイティブに関して「QRコードは消費者に認知してもらう一つの広告手段。遊び感覚であるが、先進的なイメージを強める効果がある」(三好敏文コンシューマー・マーケティング部長)と自信を持っている。今回のキャンペーンは、海外旅行をテーマにした絵文字入りの川柳を投稿してもらい、最優秀作品を選出する。ターゲットは携帯電話をアクティブに活用する絵文字好きの若年層。キャンペーンは10月3日から始まっており、途中経過について、「反応はもちろん若い人中心だが、テクノロジー好きのビジネスマンからも反応があり、より広い層からのレスポンスが得られている」(三好部長)と上々の成果を挙げているようだ。


テレビ広告と検索連動型広告を組み合わせるクロスメディア展開が活発になり、QRコードやURLを掲載する出版広告も増えている。こうした動きの背景には広告主が自社サイトへの誘導数を重視し、広告という投資に対するリターン(見返り)を求める傾向が強まっていることがある。巨大QRコードの出現により、屋外広告も携帯電話サイトへの誘導が可能になり、今まで広告効果測定が困難だったマス広告がリターンという「結果」を厳しく問われる場面がますます増えそうだ。


同様の屋外広告は東京・銀座にも展開。新宿南口フラッグスビル(写真)は10月23日、銀座山野楽器ビルは10月28日まで掲載している。


2005年10月12日水曜日

PCと携帯電話のシームレスが課題 楽天・ドコモ提携

Mikitaninakamura_1 楽天とNTTドコモは11日、インターネットのオークション(競売)事業で提携し、12月に両社が出資する新会社を設立すると発表した。楽天の三木谷浩史社長=写真左=は記者会見で「両社のノウハウを使い、携帯電話からもパソコンからもオークションをシームレス(つなぎ目なし)に楽しめるようにする」と述べた。競売事業はパソコンのサイトではヤフーが優位にあるため、今後拡大する携帯電話のサイト向け事業ではNTTドコモと組み、ヤフーに対抗する狙いだ。



新会社「楽天オークション」は楽天の競売事業を手掛けるトレーディング事業本部などを分割して設立する。設立当初は楽天の100%子会社だが、12月16日にNTTドコモが第三者割当増資に応じ、株式の40%を握る。資本金は16億5000万円になる予定。楽天はNTTドコモからの出資を得て、携帯電話向け競売のためのシステム増強を予定している。楽天オークションの携帯電話向けサイトは今後、NTTドコモ以外のユーザーも利用できるようにする。



パソコン向けサイトを運営するネット企業にとって、より多くのユーザーを獲得できる可能性がある携帯電話向けサイトでのサービス展開は事業拡大のための課題になる。総務省の「通信利用動向調査」によると、ネットユーザーの大多数はパソコンとモバイルの併用派で、その数は4300万人近くになっている。ネットの事業がパソコンから携帯電話に広がるのに伴い、パソコンで囲い込んだ顧客に対しては携帯電話でのサービスもパソコンとの区別なしに提供しながら、新規の顧客獲得を競い合う展開が続きそうだ。




2005年10月8日土曜日

ライブドア、コダックとの提携に意欲



ライブドアの照井知基上級副社長は7日、千葉市内で開催とされている情報技術機器の国際見本市「CEATEC JAPAN2005」で講演し、11月に開始する予定の無線LAN(構内情報通信網)事業に関連して米イーストマン・コダックとの提携に意欲を示した。コダックが米国などで発売している無線LANに接続できるデジタルカメラとライブドアがネットで提供しているブログ(日記風の簡易サイト)を連携させたサービスなどを検討している。







照井副社長は「コダック側とは提携を前提に交渉している」と強調。具体的な提携内容については「ブログや写真のオンラインストレージなどを一緒にやっていく。ライブドアのIDをデバイスに組み込んで簡単に写真をアップロードできるようにする研究を進めている」と述べた。ライブドアの無線LANサービスは月額525円の予定だが、ライブドアが提供するブログなどのサービスは無線LANを使っても無料。旅行先での風景写真や偶然遭遇した事故現場の写真などをコダックのカメラで撮影して、ブログに投稿するなどの用途を開拓する。


11月に開始する「ライブドアワイヤレス」はノート型パソコンのユーザーが東京の山手線エリア内の外出先でインターネットを利用することを想定しているが、将来はデジタルカメラのほか、携帯情報端末(PDA)や携帯型音楽プレーヤー、ゲーム機などもネットに接続して、ユーザーが高速通信を利用すると見ている


2005年9月28日水曜日

「ワンセグ」地デジ放送は来年4月開始

1segu NHKと関東地方の民放7社は27日、携帯電話向け地上デジタル放送(1セグ放送)を来年4月1日に開始すると発表した。従来は3月末をメドにスタートするとしていた。各局は同日、アナウンサーを動員したキャンペーン=写真=を展開。これまで「いちセグ」と呼ぶ場合もあった通称も「ワンセグ」に統一し、ロゴマークの普及活動も始めた。NTTドコモ、KDDIは同日、1セグ放送対応の携帯電話を開発したと発表。放送開始が半年後に迫り、放送会社と通信会社が連携する普及促進活動が本格化する。



地上デジタル放送は6メガ(1メガは100万)ヘルツの帯域を13セグメント(区分)に分割して送信する方式を採用しており、携帯電話向けの放送は、このうちの1セグメントを移動体向けに利用するため「ワンセグ放送」と呼ぶ。番組の内容は12セグメントを使用する通常の地上デジタル放送と同じ。各放送局は「携帯電話のきょう体としては通信と放送が一体化した」(テレビ朝日のメディア戦略室)との認識から、課金サイトへの誘導のほか、携帯電話の通信機能を使って、クイズやアンケートに視聴者が回答を寄せられるようにするなどワンセグ放送を意識した番組編成も検討する。


docomoNTTドコモはワンセグ放送を視聴できる「P901iTV」=写真=を開発、10月以降、展示会などで一般公開する。画面を横に切り替えて通常のテレビに近い感覚で視聴できるようにしたのが特徴。消費電力が少ないデジタル放送は連続して2.5時間程度の視聴が可能。アナログ放送も受信できるが、連続視聴時間は1.5時間程度にとどまる。発売時期、価格は未定。製造は松下電器産業が担当する。KDDIは三洋電機が製造するauの携帯電話「W33SA」を開発、展示用の機種を公開した。


2005年9月21日水曜日

NHK、スクランブル放送は見送り

NHK NHKは20日、受信料の不払い増加に伴う財政悪化に対応するため、3年間で1200人の職員を削減することを柱とした経営改革計画「新生プラン」を発表した。受信料不払い対策をめぐっては、受信料を支払っていない視聴者の受像機には番組が見えないようにするスクランブル放送を導入する構想も浮上したが、橋本元一会長は同日の記者会見=写真=で「スクランブルは視野に入っていない。現行の放送法のなかで可能かを考えないといけない」と述べ、導入を見送る考えを示した。













新生プランは2006年度からの3年間で1200人の職員を削減する方針を盛り込んだ。橋本会長は「1200人の削減は深い傷を負うことになるが、業務の選択と集中を進め、削減方法を考える」と述べた。人員削減により人件費は年間110億円減少する見込み。部局の統廃合や業務の外部委託などの合理化効果を加えることで合計200億円のコスト削減を狙う。





受信料不払い対策としては、受信料の不払い契約者に対し支払いを督促する法的手続きに踏み切るほか、口座振替での支払いや長期に支払いを継続している視聴者に対する優遇制度も設ける方針を盛り込んだ。すでに音楽の公開番組への参加資格として受信料の支払いを条件に設けることを試験的に実施しているが、こうした仕組みを制度化する。単身赴任者や学生を対象にした料金割引制も新設する方針だ。






2005年9月15日木曜日

早大・北川教授らが公選法改正運動 ブログOKに

ブログ(日記風の簡易ホームページ)などのインターネット関連ツールを使った選挙活動を合法化しようと、早稲田大学大学院の北川正恭教授らによる有識者グループが公職選挙法の改正を目指す協議会を発足させることになった。北川教授は14日、日本経営協会が主催するビジネスセミナーで講演し「公選法でマニフェスト(政権公約)を配れないのは直さないといけない。公選法改正運動を展開する」と表明。近くIT選挙推進協議会(仮称)を設立する方針を示した。









先の衆院選はブログが日本に本格的に普及してから初めての総選挙で、一部にはブログを中心とした政策論争が選挙の行方を左右する「ブログ選挙」になるとの見方もあった。実際はインターネットを使った選挙活動を制約している公選法の影響で、ブログやネットの影響力は限定的だった。北川教授は「選挙でIT(情報技術)が使えない、ホームページを動かせないのはバカなこと。(ネットを経由して)マニフェストが有権者に伝わるようにしたい」としており、IT選挙推進協議会の代表者に就任する予定だ。





IT選挙推進協議会には北川教授のほか、松井証券の松井道夫社長、サイバーエージェントの藤田晋社長、日本振興銀行の木村剛会長らが参加する見通し。正式な発足日時は未定。北川教授は前三重県知事で、マニフェスト選挙の推進者としても知られる。









2005年9月6日火曜日

サイボウズ、「サイボウズ・ドットネット」のアルファ版リリースを祝うパーティー開催

サイボウズはサイトの更新情報を知らせる「RSSフィード」をベースにしたビジネスパーソン向けのポータルサイト「サイボウズ・ドットネット」のアルファ版リリースを祝うパーティーを9月2日に開催した。青野慶久代表取締役社長が簡単にあいさつ。8月22日にリリースした同サイトの今後の展開については、小川浩ジェネラル・マネージャーが説明し、同氏を含めたパネルディスカッションで、一部を終了した。二部はパーティー形式で、イベントを含め、参加者の懇談が終了時間まで続いた。



「サイボウズ・ドットネット」は更新情報を表示する「RSSリーダー」を組み込んだサイト。登録ユーザーはRSSフィードをカスタマイズし、好みのサイトから情報を受け取ることができる。また、ブログ機能も提供し、受信したフィードをブログで簡単に引用する機能を持つ。「興味のある記事を引用して、すぐに自分のブログでコメントできる」(小川ジェネラル・マネージャー)のがポイントだ。アルファ版は招待制となっているが、2006年春にはベータ版をリリースし、一般ユーザーが登録して利用できるようになる。


青野社長は「サイボウズは世界標準を目指します」と力強く宣言。「情報共有にこだわるネットのサービスを作る」と、今までのグループウエアのノウハウを生かし、パッケージ商品とは異なるネット上のサービスへの期待を強調した。


ブログをテーマにしたパネルディスカッションは、カレン(東京・千代田)の四家正紀開発営業本部長、シックス・アパート(東京・港)の関信浩代表取締役、小川ジェネラル・マネージャーがパネリストとして参加。グロービス・キャピタル・パートナーズの小林雅パートナーがモデレーターを務め、ブログビジネスへの期待、注目ブログなどをテーマに議論がはずんだ。



2005年9月2日金曜日

時事通信社、ブログサイトの事業化実験

時事通信社はブログ(日記風の簡易型ホームページ)の事業化に向けた実験を開始した。湯川鶴章編集委員ら2人の記者が会社公認のブロガー(ブログ執筆者)となり、インターネットで情報技術(IT)関連産業の話題などを日記形式で発信する。同社はブログサイトを広告媒体として事業化することを視野に、このほど試作版(ベータ版)の前段階にあたるアルファ版サイトを構築した。アクセス件数などを検証する実験の期間は6カ月から1年の予定。




湯川氏は会社非公認のブログサイトで「参加型ジャーナリズム」を主なテーマにした記事の連載を公開しており、メディア関係者を中心とした固定読者を獲得している。公認サイト「ブログツナガリ」は湯川氏の知名度をいかして、ブロガーのコミュニティーサイト形成を目指していると見られる。時事通信社の関係者によると、当面、同社のニュースサイト「時事ドットコム」と実験用のアルファ版サイトはリンクしないが、事業化のメドが立った段階でリンクさせて相乗効果を高める方針という。



2005年8月31日水曜日

水面下で使われるネット調査--衆院選スタート

「郵政解散」に伴う総選挙は30日に公示を迎え、本格スタートした。企業のマーケティング活動にはインターネットが不可欠になったと言われるが、選挙活動にネットを利用することは、法の制約が大きいためまだ難しい。だが実は、水面下でネットが活用され始めている。(関連記事「メディアラボの目」









「郵政民営化に重点を置いて投票する人は24%」――。ネット調査大手のマクロミルが15日にまとめた「政治に関する意識調査」では、ネットユーザーの醒めた意識が浮き彫りになった。郵政民営化を争点にしようという首相の思惑とは裏腹に、政権与党に期待する重点 課題としては「年金・福祉」(71%、複数回答)と「景気回復」(68%)が多い。





現時点で政党の支持率をネットで調査すると、民主党の支持率が高めに出る傾向が強く、ネット調査は各政党の支持率を比較する世論調査には利用できないことは多くのネット調査会社が認めている。マクロミルの調査も支持率を探る世論調査ではない。





それでも「調査対象者の地域別、年齢別の構成比を国勢調査の比率に合わせて回答を回収するなど工夫をした」としており「ある程度は正確に政策への国民の意識を把握できる」と同社は強調する。





あるネット調査会社の担当者は「選挙情勢の把握にネット調査を使う話が、最近は広告代理店からよく持ち込まれる」と打ち明ける。ネット調査会社の多くは全国に数十万人規模の調査パネルを保有し、20問程度の設問でも1日でアンケートを集計できるノウハウがあるからだ。





短期決戦の選挙では短期間で民意を把握できるネット調査が重宝される。有権者の意向を把握するためのネット調査は2年ほど前から増え始めており、ネットによる民意のマーケティングは密かに、選挙という「情報戦」を勝ち抜く手段になりつつある。





新聞社などのマスメディアは通常、乱数番号を使った電話の世論調査を実施する。各陣営はこうしたデータも参考にしながら選挙の戦術を組み立てるが、世論調査は数百万円規模の費用が必要で、集計にも時間がかかる。





ネット調査は質問事項を作って、即日、結果を分析できるメリットがある。「企業の市場調査でも選挙目的でも値段は同じ」(ネット調査大手のインフォプラント)なので、通常の調査ならば100万円程度で可能だ。公表を前提とする世論調査ではなく、戦況を把握するための情報収集の一環として使われる。「ネット調査で当落予測をしても、NHKの出口調査に匹敵する精度の結果が出せる」と評価する関係者もいる。





現行の公職選挙法では立候補者が政策を訴えるホームページさえ更新できず、政策や意見を伝える手段として使うには大きな壁がある。一方で民意を把握するためのマーケティング活動に応用する研究はさらに先に進んでいる。





「『2ちゃんねる』に書き込まれている内容を分析すれば選挙の行方も把握できます」――。企業向けに掲示板サイト「2ちゃんねる」の監視サービスを提供しているガーラの菊川暁社長は昨夏の参院選で、ある政党に掲示板に書き込まれる有権者の本音を分析する調査を売り込んだ。だが、1年前はネットで語られる言葉の持つパワーへの認知が低く、手応えはなかった。





その後、ブログ(日記風の簡易ホームページ)が急速に普及し、ネットで語られる言葉が伝播する「口コミ」の力が見直され始めると状況はガラリと変わった。掲示板で語られる本音の言葉をもとにマーケティングをするノウハウを蓄積しているガーラに目をつけたのは電通だ。アンケートによる定量調査ではなく、ネットを使った定性調査をマーケティング戦略に活用しようと考えた。電通はガーラに出資し、10月から掲示板やブログに書き込まれた消費者の意向を調べるサービス「電通バズリサーチ」を開始する。





大企業の経営者が社内で周囲に「イエスマン」だけを配置していると、消費者の本音を聞きだせる相手は「妻と子供となじみの飲み屋の女将(おかみ)さんの3人しかいなくなる」という冗談のような話が現実にある。首相官邸が実は「情報の過疎地」というのも有名な話だ。自分についての悪い評判も含めて、世情を読み誤らないための本当に有益な情報を入手するということはトップの悩みのタネだ。





ガーラと電通の試みが選挙の実践ですぐに通用するかは未知数。ただ菊川社長は「昨夏の参院選の結果は、掲示板から読み取った予想と一致していた」と説明する。今回の総選挙をめぐっても、ブログなどを通じてネットで政治について語ろうという運動は若者を中心に活発になっている。ネットによる選挙運動は公選法による制約があるが、ネットで語られる有権者の言葉を統制することは不可能だろう。





もちろん、ネットで語られる言葉が民意の全てと誤解することは危険だ。ソーシャルネットワークサービス(SNS)大手、グリー(東京・港)の田中良和社長はネットを通じて若者らに投票を呼びかける運動に参加するが、ネットを使った政治活動については「衆愚政治の歴史もあり、難しい面もある」と指摘する。





ネット選挙はネットによる扇動という危険と隣りあわせでもある。今後、盛んになる可能性がある公選法の改正議論は「民意をマーケティング」するノウハウの蓄積と並行して進める作業になるだろう。

























































メディアラボの目 ネットの言葉は「落書き」か

インターネット調査は特定の商品を購入した人を探し出して、消費者がどんな感想を抱いたかなどを調べる目的で普及した。有権者の意向をネットで探る「民意のマーケティング」についても「特定の層にターゲットを絞り込んで、政策についての意向を探る目的では有効な手段になる可能性がある」(ネットリサーチ総合研究所の朝倉康文研究員)と専門家は指摘する。









例えば、都市部で生活する身体障害者、郊外から通勤するパート労働者など特定の層に福祉や雇用対策についての民意を探るといった使い方も考えられる。本来ならば選挙の戦況把握よりも、マニフェスト(政権公約)という政党にとっての「目玉商品」の企画段階でネット調査を活用する方が有効かも知れない。





ネット調査の市場は2年前、120億円規模に過ぎなかったが、ネットの普及に伴い拡大基調が続き、2年後の07年度には500億円規模になるとの試算がある。ネット調査会社は新興企業が多かったが、定性調査の領域では電通など大手の参入事例も出てきており、市場拡大は加速しそうだ。





電通のパートナー企業となったガーラはライブドアとも提携して、ネットユーザーの考えていることをマイニング(採掘)するビジネスをブログの分野にも広げる。米ダウ・ジョーンズと英ロイターが共同出資するファクティバダウジョーンズ&ロイターも「電通バズリサーチ」と類似のサービスを展開しようとしている。





アンケートに答えてもらい、消費者や有権者の意向を探る手法は質問の設定次第で調査結果がぶれる可能もある。一方、電通などが手掛ける定性調査の領域はネットという限定された世界とはいえ、本音で語られている言葉から消費者の意向を探ろうとする試みであり、メディアから見ても興味深い。





インターネットに書き込まれる言葉は「便所の落書き」に例えられることが多く、価値の低いものとされてきた。ただ、落書きが世相を映すことは、建武の新政における混乱を風刺した『二条河原の落書』などの例もある。ウェブで語られる言葉をマイニングすることで世相を読み解くノウハウが蓄積できれば、過去のウェブ情報を蓄積する作業に歴史的な価値を見出すことができるかもしれない。





米国ではウェブを勝手に保存する「ウェイバック・マシーン」というシステムが登場して物議を醸したことがあった。日本でも国立国会図書館が情報源を選択しながらウェブ情報のアーカイブ(記録資料)化に取り組んでいる。ウェブで語られる膨大な量の言葉から金鉱を採掘できるのか。「便所の落書き」が「宝の山」になると気づき始めた人たちの挑戦は始まったばかりだ。

























2005年8月27日土曜日

ブログ選挙に公選法の壁 

ブログ(日記風の簡易ホームページ)が本格的に普及して初めての総選挙。インターネットで自分の意見を発信するのが好きなブログ愛好者にとって総選挙は格好の話題だ。ブログサービスやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を提供する企業は「総選挙ネタ」でネットのコミュニティーを活性化させようと目論むが、公職選挙法の制約を意識して、選挙運動とみなされる発言を削除するなどの対応も迫られる。政治や選挙について自由に語りたいユーザーとのあつれきも予想され、「ブログ選挙」の試行錯誤が続いている。









25日夜。東京・永田町の自民党本部にネットエイジグループ(東京・渋谷)の西川潔社長、グロービス・グループ(東京・千代田)の堀義人代表、はてな(東京・渋谷)の近藤淳也社長らネット関連企業の経営者ら30人が集まった。「ブログを手掛けている皆さんが総選挙に及ぼす影響は大きいと思っています」。自民党の武部勤幹事長はブログ選挙を意識して、解散になった経緯やマニフェスト(政権公約)をブログ執筆者である西川氏や堀氏らに丁寧に説明した。





グロービスの堀氏はブログやSNSを使って投票を呼びかける「YES!プロジェクト」を起業家157人で立ち上げたと武部幹事長らに力説した。自民党だけではなく、民主党にも接触しており「若い世代が声を出していこうという運動への支持を両党から得た」と胸を張る。ただ、こうした試みで問題になるのは公選法の制約だ。堀氏は「特定の政党を支持する政治運動ではなく、選挙に行こう、もっと発言しようと呼びかける市民運動」としており、法令順守は徹底する考え。





「パソコンで日本地図のある県をクリックすると各選挙区の候補者を比較できる画面が出てきて、選挙民が自由に意見交換できる」――。こんな仕組みを作れば総選挙を身近に感じることができると考え、堀代表は衆議院の解散直後に「YES!」運動のサイトを開設するためのURL(アドレス)を取得した。ただ、「ネット禁止」を定めた公選法について調べて、すぐにこの構想は断念。ネットで若者に投票しようと呼びかける運動に切り替えた。





「YES!」にはSNS大手のグリー(東京・港)も参加し、SNS内での発言を呼びかける。SNSは匿名で意見を書き込む掲示板とは異なり、発言者を特定できるため単純な誹謗(ひぼう)中傷は書き込まれにくい。それでも「落選運動の呼びかけなど法令順守できない発言は削除する」(グリーの田中良和社長)としている。悪意を持たずに、意見交換のなかで特定の政治家を批判したような発言でも即削除なのか線引きは難しい。削除が続出した場合、せっかくの議論の雰囲気が壊れる懸念もある。





ブログや掲示板などで総選挙の話題は数多く登場しており、はてな、テクノラティジャパン(東京・渋谷)などネット関連事業の企業も「総選挙ネタ」を導入している。「政党の人気を競うような『はてな総選挙』はかなりのグレーゾーンだ」(ネット関連企業の経営者)などとささやかれているが、「取り締まりようがないのでは」といった意見も出ている。広島6区から無所属で立候補するライブドアの堀江貴文社長は著名なブログ執筆者の一人だが、すでにブログでは断筆を宣言しており、選挙態勢になっている。





YES 堀氏は26日、東京都内で「YES!プロジェクト」の設立について記者会見=堀氏は写真中央=した。「韓国の大統領選挙ではネットが大きな影響力を持った。日本でもできないかと思った」と述べながらも、「公選法の壁」で当初の構想を断念せざるを得なかったことに悔しさをにじませた。会見にはデジタルハリウッド大学の杉山知之学長も出席。堀氏と杉山氏は構造改革特区を使った株式会社による大学・大学院設立を手掛けているという共通点もある。株式会社による大学設立をめぐり「行政の壁」を感じていた杉山氏はこうまくし立てた。「ネットが世界で一番高速で、一番安く使える日本で、ネットが使えないなんておかしい。法律を変えるしかない」。

























2005年8月25日木曜日

無線LAN列車がデビュー 移動中の使い心地は?



lan つくばエクスプレス(TX)が24日開業し、移動中の車内で無線LAN(構内情報通信網)を利用する実験がスタートした。無線LAN接続は最新の情報技術を駆使した「ITエクスプレス」を標榜するTXの目玉サービス。「興味があったので初日から使ってみようと思った」という乗客らが早速、ノートパソコンを開いて高速で走る列車内でのネットの使い心地を確かめていた。



無線LAN対応の列車は24日、上下合わせて12本運行。実験用の車両は無線LANが利用できることを知らせるステッカーが窓の横に張ってある。夕刻の車内では携帯電話を操作している乗客の方が目立つが、ノートパソコンをネット接続している会社員の姿も見られた。車内で天気予報サイトなどを閲覧していた会社員(36)は「通信が途切れることなくオフィスのパソコンと同じ感覚で使えた」と合格点をつける。





ただ、列車内での無線LAN接続は現在、秋葉原-北千住の5駅4区間(所要11分間)に限定されており、ネット接続は「全線開通」してはいない。首都圏新都市鉄道(東京・台東)は「今年度中に全線の全編成車両で利用可能にする」(経営企画部)としている。ある実験参加者は「通勤時間にネットを使えれば、メーリングリストをチェックしてニュースを読むという朝一番に職場ですることを列車内で済ませることができる」と早期の商用化を期待していた。





これまで公衆無線LANは駅構内やホテルのロビーなど点としての展開が中心だったが、ライブドアが山手線の内側エリアを対象とした新サービスを計画するなど面として広がる兆しを見せている。TXが時速130キロで移動する列車内での無線LAN利用を商用化すれば、線としての展開も広がりそうだ。





実験は首都圏新都市鉄道、インテル、NTTブロードバンドプラットフォーム(東京・中央)の3社が来年3月末まで実施する。無料で無線LANを使える実験参加者を募集しており、実験期間中に300人が実験に参加する見通しだ。




















2005年8月20日土曜日

HBO、「ファイヤーフォックス」を利用して新番組のキャンペーンを展開

米ケーブルテレビ局のHBOは、非営利のモジラ財団が無料提供するブラウザー「ファイヤーフォックス」を利用し、歴史ドラマの新番組「Rome」のプロモーションを開始した。ユーザーはファイヤーフォックスの「テーマ」機能を使い、古代ローマをテーマにした仕様に自分のブラウザーをカスタマイズすることができる。



HBOは8月28日から放映開始する同ドラマを盛り上げるために、ネットユーザーが必ず利用するブラウザーに着目。先進的なユーザーが利用しているファイヤーフォックスは、シェアが10%に満たないものの、ユーザーが自分好みに上部のデザインとボタン類を変更できる機能を評価した。「テーマ」をダウンロードし、更新すると、ブラウザーの上部に「Rome」のロゴ、放映時間、HBOのロゴを常時表示し、ユーザーの認知度をアップできる。


ローマ仕様のブラウザーはRome」のサイトかファイヤーフォックスのサイトからダウンロードできる。他にプロモーションで利用した例として映画「Batman Begins」があり、こちらもワーナーブラザーズのサイトからダウンロードできる。HBOもタイムワーナーグループのケーブル局。同グループは傘下のAOLがインスタントメッセージのアイコンをカスタマイズしてユーザーの支持を得た成功事例にならって、「テーマ」を積極活用しているようだ。 


ブラウザーのツールバーを利用するキャンペーンは、ファイヤーフォックス以外でも実用例がある。リッチメディア広告のUnited Virtualities(本社:米国ニューヨーク州)が「Ooqa-Ooqa」というソリューションを提供。英国で子供向けの映画「シャーク・テイル」のキャンペーンで採用されている。サイトにアクセスすると自動的にツールバーがスポンサー仕様になるようになっている。ただ、米国での採用実績は伸びず、ユーザーの了解なしにツールバーを入れ替える行為が広告主にも受け入れられなかった可能性がある。


ファイヤーフォックスのテーマはユーザーの意思で変更できるため、ユーザーからの苦情を心配せずに、一定規模のマーケティング効果を望めそうだ。今後この手法が新たな販促ツールとして定着するか注目したい。


<参考>
HBO enlists Firefox for series promotion CNET: August 15, 2005
HBO series Rome to feature Firefox theme Spread Firefox: August 15, 2005


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2005年8月17日水曜日

映像を使う口コミマーケティング--ガーラの戦略

電通と共同でインターネットの口コミ情報調査を手掛けるガーラはネットを通じて口伝えに商品を消費者に浸透させる新しいマーケティング事業に乗り出す。ガーラの口コミマーケティング「バイラルプラン」は若者がネットで話題にしやすい題材の映像「バイラルムービー」をネット配信して、ブログ(日記風の簡易サイト)などを通じた口コミ情報を発生させる仕組み。マスメディアを活用した従来型のマスマーケティングが通用しなくなったとされる若年層向けの新手法として売り込む方針だ。









口コミ情報の調査・分析は電通と提携し、「電通バズリサーチ」として10月にサービスを開始する。掲示板サイトの「2ちゃんねる」、ライブドアが提供する「ライブドアブログ」などに書き込まれた文章の内容を調査して、消費者の意向を分析する。3年間で300社の顧客を開拓する計画だ。ガーラは電通バズリサーチなどでネットから得られた口コミ情報の分析結果を活用して、逆にネット経由で顧客企業の商品を消費者に認知させるマーケティング事業も展開できると判断した。





口コミ情報を発生させる手段として「バイラルムービー」を活用する。一見、商品とは関係ないものの、消費者の関心を抱かせる内容にする。米国では、ファストフード大手バーガーキングが「サブサービエント・チキン(従属するニワトリ)」というサイトを使った「口コミマーケティング」を成功させている。ニワトリに対して「飛べ」「踊れ」などと命令するとニワトリの着ぐるみが命令に従うという映像の内容が人気を呼び、結果的にチキンサンドの販促に一役買ったという。





ガーラは日本でもバイラルムービーを使い、ネットに口コミ情報を発生させれば、消費者がブログや電子メールで映像の存在を連鎖的に伝えてゆき、顧客企業の商品なども効果的に消費者に浸透していくと見ている。バイラルとはウイルスの意味で、ウイルスが感染するように口コミ情報が伝わっていく効果を狙っている。テレビやラジオを使った宣伝戦略を練るメディアプランニングに加え、ブログやコミュニティーサイトを通じた口コミ情報戦略を策定する「バイラルプラン」も企業の販促活動として定着するとしている。













2005年8月13日土曜日

はてな総選挙、愛好者から「待った」





情報サービスのはてな(東京・渋谷、近藤淳也社長)が始めた選挙関連の情報を扱うインターネットサービス「総選挙はてな」が波紋を広げている。11日に始まった同サービスは各政党を株式になぞらえて取引をする「ゲーム」。株式購入数や取引価格に応じた時価総額によって「選挙後の議席数を予測する」と説明している。ただ、人気投票の公表を禁じた公職選挙法に抵触する恐れがあるのではとの疑問がユーザー側から投げかけられ、同社は対応に苦慮している。広報担当者は「顧問弁護士と協議して15日には対応を決める」としている。














同社は「総選挙はてな」の開始前に公選法に抵触する可能性について特に確認はしておらず、総務省などにも問い合わせはしていないという。国民の関心が高い総選挙が有力なコンテンツ(情報の内容)になると判断したようだが、はてなの愛好者が公選法をめぐる問題を憂慮して「待った」をかけた格好だ。総務省は「当該サービスについて内容を把握しておらず、コメントはできない」(選挙課)としている。





今回の総選挙はブログ(日記風の簡易ホームページ)愛好者の関心も高く、政治を題材にしたブログを書く人が増えている。総務省選挙課によれば、ホームページは「法定外の文書図画」に当たるため選挙運動には使用できず、個人的に自分のホームページに書き込んだ内容であっても、選挙運動とみなされれば公選法に抵触するという。韓国ではネットを使った「落選運動」が影響力を持った事例があるが、日本ではネットを使って政治について語り合う場合、選挙運動にならない範囲に配慮する必要がありそうだ。









2005年8月10日水曜日

メディア懇談会「新しいメディアづくりを考える」

nikkei001 日経メディアラボは7月28日、「新しいメディアづくりを考える」と題したメディア懇談会を開いた。企業と生活者をつなぐメディアのあり方をめぐっては、インターネットを起点にした情報発信が企業戦略の軸になるとの見方で一致したものの、企業のブログ(日記風の簡易型サイト)活用については見方が分かれた。生活スタイルや嗜好が近い生活者同士のコミュニティーを形成する効果があるとの指摘があった一方で、広告メディアとして活用するためには情報の信頼性をどう担保するかが課題になるとの意見も出た。









講師を務めた博報堂DYメディアパートナーズの中村博メディア環境研究所長、三越の金沢春康ネットワーク企画部ゼネラルマネジャーが企業の情報発信などに関する問題を提起し、これを受けてブログを含むネットを使った企業のメディア戦略などについて議論した。中村氏は企業と生活者のコミュニケーションが双方向型になり、個人の情報発信量が飛躍的に増大するため、企業に批判的な情報が発信されるケースも増えると指摘。金沢氏は顧客と双方向につながるメディアとしてブログを活用している実例を紹介しながら「ブログでコミュニティーをおこし、百貨店の再成長を仕掛けたい」と語った。





参加者からはブログによる仮想空間のコミュニティーを活用して「仮想」と「現実」の相乗効果を追求すべきだとの意見が出た。金沢氏は「ブログはいろいろなトライアル(試行)の一つ。ネットを起点にして、いかに企業のブランド価値を高めるかが重要だ」と強調した。中村氏は批判的な情報が自社ブログを通じて発信される可能性があるため「ブログが広告メディアになるのは難しい」との見方を示した。





新しいメディアの活用方法に関連して中村氏は携帯電話がカギを握ると強調。従来のマスメディアと携帯電話を連動させるキャンペーン手法などを紹介した。金沢氏は顧客とのコミュニケーションのために店舗を「メディア」として活用できると説明。富裕層を囲い込むための「口コミ」によるマーケティングを本格化させる考えを示した。













メディア懇談会(詳報)

メディア懇談会「新しいメディアづくりを考える」の主なやり取りは以下の通り。









P1030210  【問題提起1】 中村氏「デジタル化で生活者に変化」



メディア環境研究所はネット社会の変化に伴うメディア環境の変化に関する考え方を発信している。メディアが提供する情報の形はどうなるのか、メディアはどんな新しい使い方が可能かを提案したい。活動コンセプトは「メディアおこし」、「コンテンツおこし」だ。広告メディアとして認知されていないものでも、企業と生活者のコミュニケーションの場をメディアととらえるとき、どんな使い方があるのかを考える。広告は企業にとってマーケティング活動の一要素であり、生活者とのコミュニケーション手段だ。企業が自らの戦略に基づいてコントロールできることが重要で、予算を管理できることは大きな要素だ。生活者にとって広告は生活情報であり、企業の商品やサービスを知る重要な手段だ。マスメディアに接することで自然に情報を入手できる。これがマスメディアと広告と生活者のビジネスモデルだが、この先どこまでやっていけるのかを考えたい。



日本の家庭を中心にデジタル化の進展を予測する年表を作ると、2008年か09年にはデジタル機器が半分の世帯に普及するようだ。北京五輪の時期にメディアのデジタル環境は一般化する。来年のサッカーワールドカップでデジタル機器の普及に弾みがつき、08年か09年にはデジタル化が一気に進む。これに伴い生活者の情報接触や購買行動は大きく変化するだろう。



すでにその兆しがあり、デジタルビデオレコーダーが登場してテレビの視聴スタイルが変化した。いわゆるタイムシフト視聴、CMスキップだ。野村総合研究所が「CMスキップによる広告費の損失は540億円」というセンセーショナルな発表した。540億円というのは乱暴な計算だが、CMスキップという視聴行動は間違いなく進む。メディア環境研究所が調査してみると、デジタルビデオレコーダーの購入者は半年で非常に上手くCMをスキップするようになる。「この番組はこれだけCMが入る機会があるから3回(スキップ機能の)ボタン押せばいい」と心得ており、それは見事なものだ。



購買行動の変化で顕著なのは、マス広告に刺激されて商品に関心を抱き、店頭でその商品について調べた後、ネットで買うという行動だ。ネットでの商品購入は当初、書籍や旅行、株などが主だったが、最近は家電やゴルフクラブなどにも広がっている。また、携帯電話は情報伝達だけでなく、決済や販売促進のツールとしても使われている。携帯電話にクーポン券を送付すれば、携帯電話はプロモーションのための「メディア」になる。購買の直近に情報を送ることもできるので、携帯電話にクーポン券を送るプロモーションはかなり一般化するだろう。マスメディアと携帯電話を連動させる新たなキャンペーン手法も生まれる。情報提供と購買が連動するメディアである携帯電話をどう使うかが非常に重要だ。



広告メディアの将来を考えたとき、企業と生活者を結ぶコミュニケーションは決してなくなることはなく、広告のビジネスモデルも不変だろう。ただ、生活者の情報収集行動と商品の購買行動は劇的な変化を遂げる。ネットによる検索型の情報収集はもっと一般化する。現在も広告主サイト、価格サイト、商品情報サイトなどが登場しており、こうしたサイトからの情報収集が購買行動に影響を与える。



マーケティングコミュニケーションの環境は一方通行から双方向型を含めた形になる。生活者の情報接触行動の基本は受け身だろうが、個人の情報発信量は飛躍的に増加する。企業にとって都合の良い情報提供型のコミュニケーションだけでは生活者との真のコミュニケーションはできなくなる。ネットによって生活者が情報発信手段を持つ。これは重要なテーマだ。企業にとってのマイナス情報もあっという間に流布してしまう。そういう中で企業はどういう情報戦略をとればいいのか。これも広告会社の大きな仕事になる。



企業と広告会社は広報と宣伝広告の一体化がマーケティングコミュニケーションの基本になるということを考える必要がある。広告主の多くは、広報と宣伝・プロモーションの部門が別組織になっており、我々の観察によると両者は余り仲が良くない。これからはネットでどんな情報が流れるかわからないので、広報と宣伝・プロモーションを一体化して進める体制が重要になる。



従来型のキャンペーン告知などの分野はなくならないだろうが、ネットへの誘引が必須になる。そしてあらゆる局面で携帯電話をどう使うかがカギを握る。どのようにプロモーション活動に携帯電話を活用するかだ。今、ネットは広告メディアの一部だが、やがてネットが企業から発信される情報のすべての起点になる。ネットで情報収集しながら、全てのコントロールタワーをネット側においておかないと、どこからマイナス情報が拡大するかわからない。マスメディアのビジネスはそう簡単には崩れないが、ネットを起点にモノを考えて、広報、商品情報、プロモーション情報など企業の情報戦略の根っこにネットを置くことが重要だ。



【問題提起2】 金沢氏「ブログで〝コトおこし〟」



mr 三越は超オールドエコノミーの呉服屋出身。前身の越後屋は江戸で延宝元年(1673年)に商売を始めた。百年ほど前に経営危機に陥り、創業家から切り離されることになった。三井越後屋から三越になり、1904年に三越は呉服商の将来像として「デパートメントストア宣言」をした。百年前の宣言と21世紀に向けたデパートメントを考えたとき、ブログに着手しようと考えた。呉服屋にデパートメントの概念を導入した時代は洋服部や靴部などをつくり、モノのカテゴリーでデパートを拡大してきた。昨年、百周年を記念した日本橋の新館を開業するときにも、三越だけの限定品を集めようという議論があったが、もはやモノで競争する限界を感じていた。切り口をモノからコトに変える必要があると考えた。



コトで顧客を束ねていくのがこれからの百貨店。ブログで形成するコミュニティーを成長戦略の中核に位置づけている。例えば、米国では消防士の協会が年1回、ブラックタイ着用のダンスパーティーを開く。「今年はどんなタキシードを着ていこうかな」と楽しみにしながら、毎年、消防士が夫婦で服を新調する。日本で、ただフォーマル衣料を売り込んでも、顧客は着ていく場がないという。あくまでモノは道具に過ぎず、生活を豊かにするコトを作らなければモノは売れない。だからパーティーが好きな人、アウトドアを好む人というようにライフスタイルごとに人を束ねていく必要がある。百年前は不可能だったが、今はIT(情報技術)を活用すれば可能だ。ITを使い顧客を生活スタイルごとに束ねていくのが21世紀の百貨店だとの仮説を立てた。



まず、日本橋三越の新館に人が集まれるサロンを作った。ネットではブログによる情報発信をして、バーチャルでも同じライフスタイルの人が情報を共有できる場を作ろうと計画した。昨年10月からリアルのサロンで料理教室や情報交換できるパーティーを開き、その様子をブログで伝えて、参加を呼びかけている。集まった人はその情報をリアルとバーチャルの両方で共有できる。中村所長は「メディアおこし」について話したが、我々は「コトおこし」をしようとしている。顧客に感動してもらい、結果としてモノが売れるようにしたい。



コミュニティーサロンで展開するブログは大きく分けて「感動百貨店日記」、顧客同士の情報発信ができる「倶楽部日記」、それぞれの個人ページの3つがある。会員は480人。まず参加者は自分のページで情報発信をしてもらう。ショップのページでは(三越側の)25人がブログ書いている。本店の売り場でのモノの動きなどを書いて情報を出している。顧客と交流できるように、ショップのブログ担当者に対しては2カ月に1回は講習をして「コミュニティーおこし」の仕掛けをしている。



ブログを展開しながらわかったことは、店舗は「メディア」として価値があるということだ。サイトから店舗に来て、そしてまたサイトに戻るサイクルがある。例えば食のページには菜食主義の料理の先生がいる。三越で料理教室を開き、その先生を囲んでツアーやパーティーも考えている。写真家の先生を中心にした「写真倶楽部」でもブログを通じた交流がある。ブログには写真を貼ることが可能なので、写真を展示してもらっている。リアルではパーティーや写真の即売会を開き、写真によるコミュニティーをつくろうとしている。こうした「コトおこし」を中心に百貨店の再成長を仕掛けたい。



さらに一例を挙げれば、シニアの富裕層は百貨店にとって重要な顧客だ。最近、この顧客層によるフラダンスの発表会を三越で開いてもらった。こちらは実費でワインなどの接待をして、ムームーを着た60代の主婦層がフラダンスを楽しんだ。その中には影響力がある人がいて、いろいろな経営者の奥さんを知っている人がいる。こういう人が起点になって「お茶会を三越でやりましょう」と連鎖的に人がつながっていく。広告業界でいうインフルエンサーに「口コミ」によるバイラルマーケティングの手法で人を紹介してもらいながら三越のファンを作る仕掛けをしている。



ブログで若い人を中心にコミュニティーを作る一方、リアルのサロンでは富裕層のコミュニティーもつかみたい。同窓会などのコミュニティー運営を支援し、自己実現を支援して場の提供もする。「アソシエイト」と呼ばれる影響力のある人にキーパーソンになってもらい、周りの人をどんどん呼んできてもらう。この手法はマスマーケティングではない。富裕層には「これはいいですよ」と売り込んでも、なかなか商品を買ってもらえない。しかし、友人の口から「三越で扱っているあの商品はいいみたいよ」と言ってもらうと買ってもらえるようになる。



こうしたことはリアルを補完する形でブログでも可能だろう。ブログは導入から1年足らずで、効果については何ともいえない段階だ。あくまでリアルが中心で、それを補完する情報交流の場としてブログを使っている。三越は売り上げが8年連続で減少しているが、次の成長を実現するためのトライアルをしているところだ。



【討論】



参加者(金融情報会社) 今後、リタイアが本格化する「団塊の世代」へのアプローチを考えるとき、携帯電話やネット、ブログといったIT活用が本当に有効なのか。



中村氏 私は「団塊の世代」だが、高校の同級生との連絡はほとんど電子メールだ。10年後には高齢者はかなりネットが使えるという層になるだろう。両親が孫の顔をなかなか見ることができないというので、ブログを立ち上げて子供の写真を掲載している人もいる。両親は孫の写真を見るためにパソコンを覚えたそうだ。これかも高齢者のITリテラシーは高くなる。ただ、予測が難しいのは携帯電話の使われ方だ。2010年のメディアを考えるときに、1995年に2000年を予測した本などを調べてみたが、最も予想がはずれていたのは携帯電話だった。95年にカメラが携帯電話に付くと予測した人はいない。買い物ができると予測した人もいない。メディア環境研究所の調査では、15-19歳の女性が最も長く接触しているメディアは1番がテレビで、2番は携帯電話だ。1日平均77分接触している。しかし、これが20代になるとガクッと減る。社会人になったからなのか、この5年間で携帯電話が根付いたからなのかわからない。



参加者(携帯電話向け広告会社) 三越の場合、「アソシエイト」になりうる人の特徴は?



金沢氏 想定しているのは富裕層の主婦。多趣味でいろいろな会合に顔を出している人だ。ここに働きかけて会合ごと三越に持ってきてもらうことを企画している。都内のあちらこちらで、富裕層の奥さんが交流する会合は開かれている。例えば日本画家のある先生を囲んで日本画を楽しむ会が料亭や骨董品店、フランス料理店などで開かれる。そういう会合ごと三越に連れてきてもらい、担当者を付けて、お世話していく。会合の幹事役を引き受けた人は自分が中心になって会をまとめて、メンバーへの連絡やパーティーのメニューを決めるといったことに張り切っているので、我々がサポートしていく。



参加者(携帯電話向け広告会社) こうした取り組みにデジタル技術を活用するのか。



金沢氏 そこは(ブログのようにオープンではなく)クローズド。今は表に出ていない部分だ。ネットの方は料理教室の先生中心に集まる動きや写真家の先生を囲む会の動きがある。しかし、(口コミの)バイラルでつなぐ手法はハイエンドな層を囲い込むトライアルをしている。これはブログの話とは切り分けている。





司会(日経メディアラボ所長) 販売員がブログで応答しているということは、販売員のキャラクターも商品になっているのでは。そういう販売員をどれだけ育てられるかがポイントだろう。



金沢氏 ブログサイトにそういう魅力的な販売員がいないのは問題だ。ブログ担当者向けに研修を実施しているが、なかなか上手くいっていない。ただ、ブログに取り組みながらSEO(検索エンジン最適化)についてはわかってきた。検索サイトの画面に載る何万件もの記事のうち、1本目に掲載されるためのポイントがある。ブランド名や商品の使い方を含んだタイトルを使うことなどを徹底している。



参加者(電機メーカー) 三越のブログサイトは販売員の顔が見えてこない。もっと売り場にいる担当者の顔が見えるようにして「この人に化粧品の相談に行ってみよう」という気持ちにさせるやり方にしたほうがよい。実際に来店した人の体験がわかるようなトップページになれば、リアルの店舗との相乗効果も大きくなる。



金沢氏 ブログサイトは発展途上だ。例えば、検索サイトから当社のブログサイトに来る人がいるのに、何階の売り場に商品があるということを書いていない場合がある。トップページからではなく、(検索サイト経由で)横から入ってきているのに、それを徹底できていない。優秀な「スーパー販売員」のような人は忙しくてブログを毎日書く時間もない。こうした現状のなかでサイトの内容もレベルアップしようとしているところだ。



参加者(検索サイト運営会社) バーチャルな場によるつながりがリアルの動きになる効果は出ているのか



金沢氏 オフ会で初めて日本橋の三越に来店したという人がいた。ブログによって形成したコミュニティーをマーケティングの場として使いこなしたいが、まだ「持ち駒」としては貧弱だ。





中村氏 ブログが広告メディアになるのは、なかなか難しい。口コミツールとしては強力な影響力を持ち、マーケティングツールとして、コミュニティーをつくるのにも有効だ。ただ、ツールとして使うとき、プラスに作用するかは疑問だ。企業が広告で良いことをいっても、誰かがブログにマイナスのことを書き込むと広告の情報は消されてしまう。ブログに広告を配信してお金をもらっている人はいる。人が集まれば広告メディアになるのだろうが、広告メディアの一番のポイントは信頼性があるかだ。広告主は安心できなければ、そのメディアを使わない。ネットはコントロールできないのが前提であり、その最たる例がブログだ。これから本当に問われるのは書き手のメディアリテラシーだろう。ブログは気になる存在だが、広告のビジネスにはならないだろう。



司会 新聞社がブログを使うとき、信頼性の問題、誹謗中傷を書き込まれる問題にどう対処するのか。



参加者(新聞社) 2月からブログサイトを展開している。ニュースに対するコメントにスパム(迷惑メール)のようなものが集中したことがあり、これを削除するのに往生した。一般の人がライターになって運営しているコンテンツは上手くいっている。イレギュラーな書き込みがあってもコミュニティー参加者が排除していく。企業としてはブログサイトによるビジネスモデルを作っていく必要があるので、何かやりませんかという話をあちこちにするのだが「ブログはマイナスの影響が恐い」という反応は確かにある。ただ、新聞社の看板の中でブログ展開して、新聞の記事体広告のようなものができないかという話も出ている。(誹謗中傷などの)マイナスの書き込みに対応するのは運営者の毅然たる判断と行動だ。



司会 パソコン通信のシグオペレーター(シグオペ)を務めた経験では、場の雰囲気をメンバー間で共有していれば、変な書き込みがあっても、無視するなどして対処すれば最後はそういう連中はいなくなる。中核となる人たちのコミュニティーがしっかりして、良いファンがついていれば恐がることはないと思う。



参加者(新聞社) 三越のようにブログを使って企業と生活者がつながると、生活者と企業をつなぐメディアとしての広告の役割を脅かすのか。



中村氏 脅威かもしれないが、ブログを使って1対1でつながるだけでは済まない話だ。広告活動は需要を掘り起こすことが非常に重要だ。ターゲットを絞り込んだ広告についての議論があるが、むしろ、投網で情報を(マスに向けて)流せるものの方が有効だ。企業の情報発信はネットが起点になるが、情報提供の仕方としてはマスメディアの比重はそれほど減らない。ブログが出てきて、コミュニティーを作ることはマーケティングとしてありうるが、基本としては(マス広告で)知ってもらわないとだめだろう。新聞社のブログについては、新聞の持つメディアの信頼性がブログの中で生きるのではないか。メディアの信頼性、企業の信頼性はどこからできるのか。もうごまかしは効かないわけで、良い商品を正しく伝えることしか勝ち残る手はない。



金沢氏 ブログはいろいろトライアルしているうちの一つだ。企業からの情報発信がネットを起点にするという話が出たが、マーケティング推進体制のなかで企業の情報発信をネットに集約して、いかにブランド価値を高めるかが重要だ。eビジネスを所管する部署として一番コストをかけているのもこの部分だ。もう1回、サイトを使ってブランド価値を考え直す。そのためにサイトの運営体制を全面的に見直しているところだ。



司会 かつてのサイレントマジョリティーは、いまやネットでいろいろなことを言う。その人たちと企業は付き合っていかないといけないのは厳しい時代だ。しかし、片方ではチャンスでもある。





中村氏 企業のブランド構築は顧客とどう向き合うかだ。その結果がブランドだ。そこはマーケティングリサーチャーが決めることではなく、経営者が決めることだ。














































































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