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2006年9月28日木曜日

「竹中懇」の舞台裏を明かす元秘書官

Mrkishi_1「懇談会を始めたのは、今だから言うと私の怨念みたいなものでした」――。小泉内閣時代に竹中平蔵総務相の政策秘書官を務め、26日付で国家公務員を退職した岸博幸・慶應義塾大学助教授=写真=が27日、インターネットの新潮流をテーマにした討論会に出席し、総務相の私的懇談会だった「通信・放送の在り方に関する懇談会」の舞台裏を明かした。



















岸氏はネットビジネス支援のデジタルガレージが東京都内で開いた「ザ・ニュー・コンテキスト・コンファレンス2006」に出席。2001年に竹中経済財政・IT担当相の補佐官になり、5年にわたり竹中氏を支えた経緯を振り返りながら「5年前にIT戦略本部で通信と放送の融合問題を出したが、民放を中心に強い反対があり、途中で終わってしまった。そのリターンマッチとしてやった」と述べ、通信と放送の融合が5年来の懸案だったと強調した。





岸氏は6月にまとまった懇談会の最終報告書を実質的に執筆し、通信と放送の融合をにらんだ改革議論のシナリオを裏方で練ってきた総務相の政策ブレーンだった。最終報告書の内容については「対NTTは大変厳しく、対NHKも厳しい。ただ、対民放はすごく甘い内容になっている。民放の皆さんはもっとビジネスを展開してください。自由にやってくれという要素が入っている」と指摘。「放送業界が自分の世界から思い切って(外に)出て行くきっかけを作るつもりで報告書を出した」と述べ、放送局のネット事業に期待感を示した。





岸氏は「今回も民放からは強い反対と根回しがあった。(最終報告書は)100点満点ではなかった」と自己採点。さらに「大臣に民放各社のトップと水面下で議論してもらったが、上(経営者)の皆さんはどういう方向に行かざるを得ないのかをわかっていた。ただ、なぜか業界団体の民放連は強く反対する不思議な構図があったので、緩める部分は緩めてあげた」と述べ、放送業界に対しては譲歩したことを認めた。





最終報告書をまとめた後も、政府・与党が通信・放送分野の改革で合意するまでには調整が難航。NTTの組織形態などをめぐっては自民党側に妥協する面も目立った。岸氏は霞ヶ関を去った立場から「しょうもないのは自民党だ。族議員が残っていて、一生懸命に反対した」と恨み節を漏らしながらも「(安倍内閣の)菅義偉総務相は(小泉内閣で)総務副大臣としてやってきたので、方向性は確実に引き継がれる」と力説した。





岸氏が20年間務めた霞ヶ関を離れ、公の場で「竹中懇」について語るのは初めて。今後については「ケンカを仕掛けるのが仕事になる。相手は自民党かも知れない」などと周辺に語っており、慶大助教授の傍ら、民間主導で政策提言などもしていく考えのようだ。



























2006年9月14日木曜日

「オーマイニュース」というメディアづくり

韓国のインターネット新聞「オーマイニュース」日本版が創刊して2週間が過ぎた。韓国で成功した市民参加型メディアの日本上陸という話題性も手伝い、市民や消費者が情報発信する時代のメディアづくりに関する議論が活発になっている。ネットでブログ(日記風の簡易型ホームページ)を執筆するブロガーの間でも「オーマイニュース」をめぐり賛否両論が沸き立っている。














「要は誰が、ではなく何を書いたか、だ」。駒沢大学の山口浩グローバル・メディア・スタディーズ学部助教授は実名で執筆しているブログで、オーマイニュースが市民記者によるニュースを売り物にしていることについて、読み手の視点を欠いていると批判する。ブログなどの更新情報を受け取るRSSリーダーの利用者は「マスメディア、市民メディア、ブログといった帰属の別が関係なくなっている」と指摘。読み手側は市民記者が書いたということに大きな価値を感じてはおらず、記事の内容次第で評価が決まると見ている。



韓国でオーマイニュースが登場した6年前はブログが普及する以前で、市民が意見表明する機会や情報発信する手段は少なかった。その後、世界的にブログが普及し、CGM(消費者作成メディア)という言葉も定着してきた。市民参加型ネット新聞の日本での草分け的存在である「JANJAN」のある編集者は「ブログがでてきたので、(市民は)自分で自分の意見を言えるようになった。米グーグルの検索サービスを使えば、いろいろな人に見てもらえる。(ネット新聞は)何をしたらいいのかと悩む」と打ち明ける。



人気ブログ「ガ島通信」執筆者の藤代裕之さんはオーマイニュースと著名ブロガーの対話集会を呼びかけた。早稲田大学で2日に開催したシンポジウムでは自ら司会を務め、その後、参加者へのアンケート結果をブログで報告している。参加者の中には「市民記者登録を決心した」という人もいたが、「この程度の内容ならブログでいくらでも読める」、「先行者(JANJAN)から全く学んでいないのは致命的」と批判的な意見も多かった。



一般読者を対象とした新聞記事よりも専門的な内容を扱ったブログが多数存在し、JANJANなどの類似サイトもある状況で、オーマイニュースの日本での「立ち位置」は定まりにくい。これに対し、オーマイニュースの鳥越俊太郎編集長は早大でのシンポジウムで、市民による日常生活の体験談を積み上げれば、既存のメディアと違う視点からの問題提起ができると強調した。例えば、病院で点滴を打ってもらったときの経験から、点滴のミスで被害にあった当事者が次々と体験談を投稿していけば「日本の医療現場がどうなっているのかを検証できる」と市民記者の活躍に期待を寄せている。



一方、既存メディアで働くブロガーの見方は趣が異なる。時事通信社の湯川鶴章編集委員はブログの中で、オーマイニュースの呉連鎬社長から日本での事業展開について相談を受けたことを明らかにしている。「JANJAN」やライブドアの先行事例を分析して、「否定的な見解を述べておいた」と書いているが、むしろ、ソフトバンクがオーマイニュースに出資したことに着目し、ソフトバンクやヤフーがオーマイニュース日本版を集客力のあるニュースサイトを育てる可能性があるのかを呉連鎬社長の姿勢などから見極めようとしていた。



ブログ「竹橋発」を執筆する毎日新聞社の磯野彰彦編集局次長は早大でのシンポジウムに出席し、「タレ込み情報がオーマイニュース側に流れて、抜かれたら困る」と警戒感を隠さなかった。既存メディアに所属する湯川氏や磯野氏は事業と編集の両面からオーマイニュースが競合相手になり得るのかが気になる様子だった。



批判的な意見や警戒感が渦巻くなかで、ブロガーからは「市民記者に自分の住む地域の課題を中心に取材してもらうことから始めたらどうだろうか」(ブログ「talleyrandの備忘録」)との提案もあり、オーマイニュースに期待する声も出ている。例えば、市町村の議会での委員会質疑、地域で開催されるシンポジウムなど既存メディアが記者を配置する手間をかけられない所で、どんな発言があり、何が起きたのかをきめ細かく伝えていけば、既存メディアとの違いも打ち出せる。



消費者や市民がネットなどで情報発信できる時代に、ことさら市民記者が書いたことを強調することに意味はないのかも知れない。「読みたい記事がない」(駒沢大の山口助教授)と感じている読み手の不満に応えるメディアづくりは、既存メディアも市民参加型メディアにも共通の課題になるだろう。



▼「talleyrandの備忘録」


オーマイニュース考 


http://blog.goo.ne.jp/talleyrand_2006/e/7b72987ee2c084e72504125398859847



▼「H-Yamaguchi.net」 


オーマイニュースについて(1):現状分析 


http://www.h-yamaguchi.net/2006/09/1_77cc.html#more



▼「ガ島通信」


[イベント]ブロガー×オーマイシンポジウム「アンケート」概要報告


http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20060904/1157375900



▼「湯川鶴章のIT潮流」


日本版オーマイニュースの狙いは打倒権威主義


http://it.blog-jiji.com/0001/2006/02/post_0730.html




































2005年11月11日金曜日

再びグーグルゾンを読み解く(1)「グーグルゾン」誕生前夜

インターネット企業とメディア企業の覇権争いが相次ぐ2005年。変化のスピードが加速するメディアの未来を考えるヒントとして、「EPIC2014」と題するSF短編映像が昨秋から今春にかけて日本のメディア業界に伝わったことは記憶に新しい。この映像作品に登場する米国のグーグルとアマゾン・ドット・コムの幹部がこのほど相次ぎ来日。両社の戦略が伝わるにつれ、「EPIC」を再検証する必要性も浮かび上がってきた。今春に続いて、再び「グーグルゾン(Googlezon)」の物語を読み解いてみる。



日本経済新聞社などが10月に開催した「世界経営者会議」。グーグルのエリック・シュミット会長兼最高経営責任者(CEO)は会議の席上、世界中の書籍を電子化する構想について「本を無原則にコピーさせるつもりはなく、検索により埋もれていた本の購入を促すのが目的だ」と力説した。「電子図書館」計画は一部の出版社が反発しているものの、シュミット氏は強気な横顔をのぞかせる。EPICに登場する架空企業のグーグルゾンは米ニューヨーク・タイムズと著作権をめぐる係争を最高裁まで繰り広げるタフな企業として描かれているが、グーグルゾンの前身にあたるグーグルも現実の世界で攻めの姿勢を崩さない。


埋もれていた過去の出版物の販売を促進するという戦略は、グーグルゾン物語のもう一つの主役、アマゾンの姿と重なり合う。アマゾンは顧客の購買履歴に基づくレコメンデーション(推薦)機能を武器に、売れ筋商品以外も薄く広く売り込む「ロングテール商法」を確立し、成長を続けてきた。グーグルはアマゾンのように物流機能も抱え込んだ物販にまでは踏み込まないが、得意分野の検索技術を活用して販売促進の分野に切り込んでいく方針だ。あらゆる電子化された情報を束ね、閲覧者のリーチ(到達)を極大化することで広告収入を増やすという従来の戦略一辺倒ではなくなる兆しを見せる。


Amazon_1  グーグルのシュミット氏が講演した3日後の10月28日。アマゾンのカル・ラーマン上級副社長=写真=も東京都内で講演し、書籍の電子化に関連した新サービスを日本でも始めると表明した。アマゾンジャパンは講談社など280社の協力を得て、キーワードによる検索で本の中身をネットで閲覧できるようにした。このサービスは米国で2年間の実績があり、米アマゾンは来年からは書籍のページを「立ち読み」するだけでなく、必要なページがあれば、ページ単位で購入できるようにする。書籍を配送するビジネスだけでなく、テキストのコンテンツ(情報の内容)をネット配信する事業に本格参入する構えだ。


検索したコンテンツをネットで提供する手法はグーグルの狙う事業領域と重なり合う。グーグルのアマゾン化、そしてアマゾンのグーグル化――。「EPIC」は両社が合併して新会社「グーグルゾン」が誕生するという話だが、実際に両社が合併するかどうかを議論することに意味はない。コンテンツをかき集めて、提供することで圧倒的なリーチを誇るグーグル。書籍以外にも幅広い商品を扱い、消費者の購買履歴を握るアマゾン。両社の強みを合わせ持つ「グーグルゾン」型企業こそが、メディアとして、マーケティングの巨大システムとしてネットの覇権を握るという現実を重視すべきなのだろう。


Raku_1 最近、日本で「グーグルゾン」志向を強めている典型的な企業は楽天だ。グーグル型の検索ポータル(玄関)サイトも手掛けているが、リーチは国内トップのヤフーに及ばない。楽天のグーグルゾン志向はアマゾン型企業のグーグル化という構図。三木谷浩史社長=写真=は常々、「3000万人の会員データベースが強み」と力説している。TBSとの経営統合構想をめぐっては楽天のポイント制も活用しながら、番組や広告を個々の会員にレコメンデーションする戦略を打ち出している。リーチを極大化できる展望が開ければ、顧客のニーズを個別にきめ細かく刈り取れる会員データベースが強みを増すことになる。


グーグルの圧倒的なリーチ、アマゾンの膨大な消費履歴データ。この2つを握る「グーグルゾン」型企業は「不特定多数」の相手にコンテンツを一方的に送り出すだけのマスメディアとは根本的に異なる事業基盤を持つ。顧客データベースを活用して「特定多数」の顧客に対して個別にコンテンツをフィード(提供)するインフラを握るからだ。楽天は単に映像コンテンツの確保を狙ったのではなく、楽天・TBS連合軍でリーチを極大化しようと呼びかけたはずだったが、資本をめぐる攻防戦に陥り、構想は暗礁に乗り上げている。


「3年後に三木谷の言っていることは正しかった、ということになる」。三木谷社長はメディアの未来を見据えた主張に自信を見せる。「消費者はネットで買い物をするようになる」という仮説を現実の話にしたビジョナリー(予言者)としての自負心もあるのだろう。北京五輪開催などが予定される3年後、デジタル家電は日本の各家庭に本格的に普及すると見られている。メディア企業やネット企業が本格的なデジタル時代への布石を打とうとしているとき、「EPIC」はこう語りかける。2008年、グーグルゾンが誕生する。


2005年10月27日木曜日

大手新聞社が相次ぎポッドキャスト開始

大手新聞社が相次いでインターネットで音声のニュース番組を配信する「ポッドキャスティング」を始めている。日本経済新聞社、毎日新聞社に続いて、読売新聞社も24日に約20分の番組を配信する「読売ニュースポッドキャスト」を開始した。アップルコンピュータ日本法人が集計しているポッドキャストの人気ランキングによると、26日夕の時点では「日経ブロードバンドニュース」が1位、「毎日新聞ポッドキャスト」も22位に入るなどニュース番組が人気を集めている。









「新聞を読まない若者にまず耳から入り、社説やコラムにも触れてもらいたい」――。コンテンツ(情報の内容)配信のオービチューン(東京・新宿)が26日、アップルストア銀座(東京・中央)で開催したポッドキャストセミナーに読売新聞社の担当者が出席し、「読売ニュースポッドキャスト」の狙いをこう強調した。新サービスは米国でポッドキャストが急速に普及したことに注目した同社の若手記者がポッドキャストを活用したニュース配信の実験を提案し、社内で検討を続けていたという。番組は読売新聞の放送用原稿を活用して、オービチューンが制作。平日午前6時に配信している。





担当者の馬野耕至・東京本社メディア戦略局開発部長は「広告モデルのメドが立ったため、新事業に踏み切った」と説明している。①バリアフリーサービスの拡大、②新聞無読者の紙面への誘導、③新たな収益源の開拓――などの目標を掲げ、新聞離れ傾向が強まっている若者にもアピールする。携帯電話を使いこなす若者を読者に取り込むため、携帯電話とポッドキャストの融合も視野に入れて事業を展開する考えだ。





新聞社がポッドキャストに本格参入することで、広告ビジネスの可能性も広がる。オービチューンはポッドキャストとアドバタイジング(広告)を組み合わせた「ポッドバタイジング」という造語を紹介。ポッドキャストに関連した広告市場の拡大に期待感を示した。同社によると、ポットキャストはユーザー主導型の性格が強く、広告のターゲットにリーチしやすい特徴がある。広告料金を1ダウンロードあたりの単価で決められるため、広告主側のリスクは低く、広告主に売り込みやすいという。





ただ、ポッドキャストを新しい広告媒体として期待しているメディア側から見ると、ダウンロード数に応じた料金体系よりも、番組スポンサー枠として売りたいとの思惑もあり、ポッドキャスト関連広告をめぐって、どのような料金体系が定着していくのかは不透明だ。読売ニュースポッドキャストは現在、スポンサーがついていないという。米有力紙のワシントンポストも映像版のポッドキャスト「ワシントンポスト・ドット・コム・ビデオ」を始めたが、当初は広告がない状態。新聞社が手掛けるニュース「ネット放送」は参入企業が増え、音声から映像へのシフトも始まっているため、今後、広告を含めたビジネスの仕組みづくりで各社が知恵を絞ることになりそうだ。

















2005年10月19日水曜日

メディア攻防第2幕の「鑑賞法」

Mikitani_1 楽天のTBS株大量取得は、新興ネット企業が既存メディアに「待ったなし」の判断を迫っている構図を浮き彫りにした。既存事業を堅持しつつ、ネットの新事業をじっくり育てようと構えていた既存メディアと、先を急ぐネット企業との時間感覚のズレが目立っている。



(関連記事「メディアラボの目」)









「データベースマーケティングの取り組みによる広告の高付加価値化」。楽天が13日、TBSに提出した「世界に通用するメディアグループ設立のご提案」にはこんな文字が盛り込まれている。楽天は仮想商店街の最大手。ネットで買い物を楽しむ消費者のデータを握っている強みがある。放送局の持つ映像コンテンツ(情報の内容)をネットで有効活用すれば、ヤフーにも劣っている集客力を飛躍的に高め、顧客それぞれの嗜好(しこう)に合わせて商品やサービスの価値を伝える「ターゲティング広告」が可能になるとの読みだ。





「広告の高付加価値化」はテレビ局にとって現在最も重要な経営課題だ。今春、野村総合研究所がハードディスク駆動装置(HDD)レコーダーを使った「CM飛ばし」による広告費の損失額は540億円との試算を公表し、電通が猛反発した一幕があった。ただ、広告業界の中にも「CMスキップという視聴行動は間違いなく進む」(博報堂DYメディアパートナーズの中村博メディア環境研究所長)との指摘があり、テレビ局ももはや問題を軽視できない状況に置かれている。





日本民間放送連盟が始めた、8月28日を「テレビCMの日」とするキャンペーンを見た人も多いだろう。「民放のCM開始は1953年。50周年の節目でもないのに、突然、CMの日と言い出したのはテレビ業界が危機感を強めたことの現れ」(電通OBの北野邦彦・帝京大教授)とみられる。もちろんテレビ局は単に危機感を募らせているだけではない。日本テレビ放送網が27日深夜に始めるネットでの番組配信事業「第2日本テレビ」など、ネット事業をテコに放送外収入を増やす戦略を打ち出しているところも多い。





TBSも従来は著作権処理が困難とされていた連続ドラマなども含め、番組をネット配信する事業を計画するなどで無策だったわけではない。ただ、突然登場した筆頭株主の楽天からネットを経営課題としてもっと真正面から受け止めろとにじり寄られ、焦りの色を隠せないのが現実だろう。既存事業を堅持しつつ、ネットによる番組放映という新事業を自社のペースで育てようという戦略は見直さざるを得ない。





楽天がTBSに経営統合を提案した同じ13日(日本時間)、米アップルコンピュータはテレビ番組などの映像を再生できる新型「アイポッド」の製品発表をした。米ABCの人気ドラマなどの映像コンテンツをダウンロードして、好きな時間に視聴できる生活スタイルを提案したのだ。テレビ番組のネット配信が始まろうとしている日本でも、放送がインターネット経由で「ポッドキャスティング」される時代の到来も遠くなさそうだ。





Justfor_3 この日のアップルの発表はビデオ視聴に話題が集中したが、裏で新しいサービスも始まっていた。楽曲の購入履歴をもとに、ユーザーの嗜好(しこう)に合致していそうな別の曲を紹介する「ジャスト・フォー・ユー」=写真=だ。書籍のネット通販大手、アマゾン・ドット・コムと同じ手法で、アップルは「パーソナライズが可能な楽曲レコメンド(推薦)機能」と説明している。





電子書籍やテレビ番組、音楽などをユーザーの好みに応じて提供するコンテンツ配信のプラットホーム(基盤)は、米国メディアの未来を予測した短編映像「EPIC2014」に登場する企業「グーグルゾン」を想起させる。グーグルゾンは広告もユーザーの好みに応じて提供する。「CM飛ばし」も起こりにくいだろう。楽天の映像コンテンツを活用したデータベースマーケティング戦略がこうしたメディアの未来像と重なり合うとき、楽天のTBSへの「ご提案」はTBSから見ても魅力的に映るはずだ。





ただ、楽天とTBSの経営統合構想が実現するには課題が多い。例えば、「放送とネットの融合」についての基本認識の違いだ。楽天の提案には両社の経営統合のメリットを説明するこんな一節がある。「東京放送(TBS)の様々なコンテンツが従来の無線通信という配信手段に加えインターネットを通じて広く提供される」。あえて「放送」を「無線通信」と表現し、通信の一形態と位置づけている。「放送と通信は協力関係にはなるが、融合はあり得ない」(民放連会長の日枝久フジテレビジョン会長)という見解のテレビ業界を挑発するような文言だ。





ニッポン放送の経営権をめぐって争ったフジテレビとライブドアは提携して「協力関係」を模索することで話が落ち着いた。フジテレビ側が「融合はあり得ない」とライブドアを押し切った格好だが、今回の「第2幕」を見ていると、既存メディアと新興ネット企業は「協力関係」よりも、本質的にメディアの覇権をめぐる戦いが避けられないという現実を実感させる。





(山根昭)






































メディアラボの目 「紙とネット」のジレンマ

Sinbun_1  最近、新聞業界でひそかに話題になっている本がある。「新聞がなくなる日」。著者は毎日新聞社の取締役編集局長などを歴任した歌川令三・東京財団特別研究員だ。著書のなかで歌川氏は「2030年に新聞がなくなる」と予測。本業の紙媒体に加え、インターネットによる電子媒体も手掛ける新聞社が「紙とネット」というハイブリッド型の事業展開をする課題を指摘している。









新聞社は1990年代中ごろから「紙とネット」の経営形態を模索し続けている。これに10年ほど遅れる形で、テレビ放送会社も電波を使った放送事業とは別に、ネット関連事業を本格的に立ち上げて「波とネット」というハイブリッド型を強く志向し始めた。既存メディアには「紙」だけで十分に収益を確保できた時代、「波」だけで十分だった時代が少しでも長続きすればいいとの思惑もあったが、ネット媒体の台頭に伴い、ハイブリッド型への移行を急がざるを得なくなったのが実情だ。





「堀江さんに背中を押された格好になった」(フジテレビジョンの村上光一社長)、「ホリエモンに感謝しないといけない。放送事業者の目を覚ましてくれたから」(産業経済新聞社出身の中村啓治・福島テレビ社長)といった声がフジサンケイグループ幹部からは最近、よく聞かれる。ライブドアの「侵攻」を防衛できた安堵感が背景にあるとはいえ、半分程度は本音の発言かもしれない。





「ネットが既存メディアを殺す」とばかりにテレビ局の買収を仕掛けたベンチャー経営者の登場に、今春、多くのメディア企業が不快感を示した。ライブドアの堀江貴文社長に指摘されるまでもなく、ネット時代を見据えた準備は粛々と進めてきたという自負がテレビ側の経営者にはあったためだ。ただ、メディア関係者の多くは粛々と準備をしながらも、想定していたロードマップ(行程表)が前倒しになりつつあることを感じている。





「著作権の問題なんて実はしっかり手続きを踏めばクリアできる。そうしないのは、まだネットが大きなビジネスになる時期が到来しないないと判断しているからだ。その時期になれば、いつでもクリアできる」。これまでテレビ局の番組ネット配信をめぐっては、著作権問題が難関になるとされてきたが、最近は放送局首脳からはこんな発言も漏れてくる。そして各社はネットが大きなビジネスになる時期を見据えて、「波とネット」型に踏み出し始めている。





新聞社が「紙とネット」の2本柱を目指し10年経過しても、紙媒体が主力で、ネット媒体は補完的な事業という状況に変化はない。ただ、現在、新聞は紙媒体から電子媒体に経営の軸足を移していく過渡期に入っているとの見方もある。その完全なシフトがいつになるのかは不透明だが、歌川氏の「2030年説」のように具体的な時期を予想する動きも、現に新聞関係者の中から出ている。





韓国では市民から記事を募集するネット新聞が成功して、既存の新聞社は相対的に影響力が低下している。米国ではポータル(玄関)サイト大手のヤフーが新聞やテレビの人材を引き抜いてメディア企業としての布陣を固めつつある。「ネットは新聞を殺すのか」などの著作がある時事通信社の湯川鶴章編集委員は「ポータルとメディア企業の衝突は避けられない。この動きは日本にも飛び火する」と見ている。





新聞やテレビなどの既存メディアは現在の主力である既存事業を堅持しつつ、ネットにいつ、どのように軸足を移していけばいいのか難しい判断を迫られている。一気にネット事業に踏み込んでも、新聞やテレビ局が運営するサイトの集客力は主要なポータルサイトと比べて見劣りする。世界を見渡せば、韓国のインターネット新聞「オーマイニュース」、米ヤフーのような新しいメディアと既存メディアの攻防が激化している。





歌川氏の著作は既存のメディアがネットと向き合うとき「カニバリズム」が課題になると指摘する。新聞は既存事業(紙)と新規事業(ネット)の共食いというジレンマに陥っていると分析し、新聞業界に対して「新しい自分を確立するために旧い自分を食ってしまうことができるのか」と問いかける。既存のメディアがネットを経営資源として有効活用できる新しい業態を目指すとき、最大の敵は自分自身かもしれない。

































2005年8月31日水曜日

水面下で使われるネット調査--衆院選スタート

「郵政解散」に伴う総選挙は30日に公示を迎え、本格スタートした。企業のマーケティング活動にはインターネットが不可欠になったと言われるが、選挙活動にネットを利用することは、法の制約が大きいためまだ難しい。だが実は、水面下でネットが活用され始めている。(関連記事「メディアラボの目」)









「郵政民営化に重点を置いて投票する人は24%」――。ネット調査大手のマクロミルが15日にまとめた「政治に関する意識調査」では、ネットユーザーの醒めた意識が浮き彫りになった。郵政民営化を争点にしようという首相の思惑とは裏腹に、政権与党に期待する重点 課題としては「年金・福祉」(71%、複数回答)と「景気回復」(68%)が多い。





現時点で政党の支持率をネットで調査すると、民主党の支持率が高めに出る傾向が強く、ネット調査は各政党の支持率を比較する世論調査には利用できないことは多くのネット調査会社が認めている。マクロミルの調査も支持率を探る世論調査ではない。





それでも「調査対象者の地域別、年齢別の構成比を国勢調査の比率に合わせて回答を回収するなど工夫をした」としており「ある程度は正確に政策への国民の意識を把握できる」と同社は強調する。





あるネット調査会社の担当者は「選挙情勢の把握にネット調査を使う話が、最近は広告代理店からよく持ち込まれる」と打ち明ける。ネット調査会社の多くは全国に数十万人規模の調査パネルを保有し、20問程度の設問でも1日でアンケートを集計できるノウハウがあるからだ。





短期決戦の選挙では短期間で民意を把握できるネット調査が重宝される。有権者の意向を把握するためのネット調査は2年ほど前から増え始めており、ネットによる民意のマーケティングは密かに、選挙という「情報戦」を勝ち抜く手段になりつつある。





新聞社などのマスメディアは通常、乱数番号を使った電話の世論調査を実施する。各陣営はこうしたデータも参考にしながら選挙の戦術を組み立てるが、世論調査は数百万円規模の費用が必要で、集計にも時間がかかる。





ネット調査は質問事項を作って、即日、結果を分析できるメリットがある。「企業の市場調査でも選挙目的でも値段は同じ」(ネット調査大手のインフォプラント)なので、通常の調査ならば100万円程度で可能だ。公表を前提とする世論調査ではなく、戦況を把握するための情報収集の一環として使われる。「ネット調査で当落予測をしても、NHKの出口調査に匹敵する精度の結果が出せる」と評価する関係者もいる。





現行の公職選挙法では立候補者が政策を訴えるホームページさえ更新できず、政策や意見を伝える手段として使うには大きな壁がある。一方で民意を把握するためのマーケティング活動に応用する研究はさらに先に進んでいる。





「『2ちゃんねる』に書き込まれている内容を分析すれば選挙の行方も把握できます」――。企業向けに掲示板サイト「2ちゃんねる」の監視サービスを提供しているガーラの菊川暁社長は昨夏の参院選で、ある政党に掲示板に書き込まれる有権者の本音を分析する調査を売り込んだ。だが、1年前はネットで語られる言葉の持つパワーへの認知が低く、手応えはなかった。





その後、ブログ(日記風の簡易ホームページ)が急速に普及し、ネットで語られる言葉が伝播する「口コミ」の力が見直され始めると状況はガラリと変わった。掲示板で語られる本音の言葉をもとにマーケティングをするノウハウを蓄積しているガーラに目をつけたのは電通だ。アンケートによる定量調査ではなく、ネットを使った定性調査をマーケティング戦略に活用しようと考えた。電通はガーラに出資し、10月から掲示板やブログに書き込まれた消費者の意向を調べるサービス「電通バズリサーチ」を開始する。





大企業の経営者が社内で周囲に「イエスマン」だけを配置していると、消費者の本音を聞きだせる相手は「妻と子供となじみの飲み屋の女将(おかみ)さんの3人しかいなくなる」という冗談のような話が現実にある。首相官邸が実は「情報の過疎地」というのも有名な話だ。自分についての悪い評判も含めて、世情を読み誤らないための本当に有益な情報を入手するということはトップの悩みのタネだ。





ガーラと電通の試みが選挙の実践ですぐに通用するかは未知数。ただ菊川社長は「昨夏の参院選の結果は、掲示板から読み取った予想と一致していた」と説明する。今回の総選挙をめぐっても、ブログなどを通じてネットで政治について語ろうという運動は若者を中心に活発になっている。ネットによる選挙運動は公選法による制約があるが、ネットで語られる有権者の言葉を統制することは不可能だろう。





もちろん、ネットで語られる言葉が民意の全てと誤解することは危険だ。ソーシャルネットワークサービス(SNS)大手、グリー(東京・港)の田中良和社長はネットを通じて若者らに投票を呼びかける運動に参加するが、ネットを使った政治活動については「衆愚政治の歴史もあり、難しい面もある」と指摘する。





ネット選挙はネットによる扇動という危険と隣りあわせでもある。今後、盛んになる可能性がある公選法の改正議論は「民意をマーケティング」するノウハウの蓄積と並行して進める作業になるだろう。

























































メディアラボの目 ネットの言葉は「落書き」か

インターネット調査は特定の商品を購入した人を探し出して、消費者がどんな感想を抱いたかなどを調べる目的で普及した。有権者の意向をネットで探る「民意のマーケティング」についても「特定の層にターゲットを絞り込んで、政策についての意向を探る目的では有効な手段になる可能性がある」(ネットリサーチ総合研究所の朝倉康文研究員)と専門家は指摘する。









例えば、都市部で生活する身体障害者、郊外から通勤するパート労働者など特定の層に福祉や雇用対策についての民意を探るといった使い方も考えられる。本来ならば選挙の戦況把握よりも、マニフェスト(政権公約)という政党にとっての「目玉商品」の企画段階でネット調査を活用する方が有効かも知れない。





ネット調査の市場は2年前、120億円規模に過ぎなかったが、ネットの普及に伴い拡大基調が続き、2年後の07年度には500億円規模になるとの試算がある。ネット調査会社は新興企業が多かったが、定性調査の領域では電通など大手の参入事例も出てきており、市場拡大は加速しそうだ。





電通のパートナー企業となったガーラはライブドアとも提携して、ネットユーザーの考えていることをマイニング(採掘)するビジネスをブログの分野にも広げる。米ダウ・ジョーンズと英ロイターが共同出資するファクティバダウジョーンズ&ロイターも「電通バズリサーチ」と類似のサービスを展開しようとしている。





アンケートに答えてもらい、消費者や有権者の意向を探る手法は質問の設定次第で調査結果がぶれる可能もある。一方、電通などが手掛ける定性調査の領域はネットという限定された世界とはいえ、本音で語られている言葉から消費者の意向を探ろうとする試みであり、メディアから見ても興味深い。





インターネットに書き込まれる言葉は「便所の落書き」に例えられることが多く、価値の低いものとされてきた。ただ、落書きが世相を映すことは、建武の新政における混乱を風刺した『二条河原の落書』などの例もある。ウェブで語られる言葉をマイニングすることで世相を読み解くノウハウが蓄積できれば、過去のウェブ情報を蓄積する作業に歴史的な価値を見出すことができるかもしれない。





米国ではウェブを勝手に保存する「ウェイバック・マシーン」というシステムが登場して物議を醸したことがあった。日本でも国立国会図書館が情報源を選択しながらウェブ情報のアーカイブ(記録資料)化に取り組んでいる。ウェブで語られる膨大な量の言葉から金鉱を採掘できるのか。「便所の落書き」が「宝の山」になると気づき始めた人たちの挑戦は始まったばかりだ。

























2005年7月27日水曜日

企業ブログ、顧客とつながる「共同体」を形成(上)

ブログ(日記風の簡易型ホームページ)がコミュニケーションを変える。情報を共有するコミュニティー(共同体)を容易に形成できるブログの普及により、企業と顧客、顧客と顧客のコミュニケーションが活性化。企業はインターネットに顧客中心の共同体を形成し、その一員として顧客と向き合うコミュニケーションの形態を模索する。マスメディアもマスに対する一方的だったコミュニケーションのあり方を根本的に問い直す局面を迎えた。









P5220640 「家計簿も日記もつけていない私がブログは2カ月続いています」。東京都練馬区でフラワーアレンジメントのアトリエを運営する関口千恵子さんは5月に三越が日本橋本店(東京・中央)で開いた「写真倶楽部」のオフ会=写真=に参加し、こう胸を張った。写真倶楽部とは、写真家のシヲバラタク氏が三越のブログサイト「三越コミュニティサロン」に執筆するブログを核としたネットのコミュニティーだ。





ネットのコミュニティー参加者が実際に会うオフ会の会場は本店7階の「コミュニティサロン」。この日は写真愛好家の女性ら50人以上が参加し、シヲバラ氏を囲んでワインパーティーを楽しんだ。参加者は関口さんのようにブログを読むだけでなく、三越のブログサイトにコラム風の文章を執筆する人も少なくない。





三越コミュニティサロンは百貨店業界としては初のブログサイトだ。ブログ活用の責任者であるネットワーク企画部の金沢春康ゼネラルマネジャーは「モノが売れないと嘆くばかりではなく、顧客が商品を欲しくなるオケージョン(機会)を作り、結果としてモノが売れるというサイクルを確立したかった」と説明する。ブログを導入して顧客中心のネットワークを形成し、リアル店舗の「コミュニティサロン」も使いながら共同体を運営することで顧客を囲い込む戦略だ。





ただ、業界初の試みは社内では風当たりが強かった。「店舗面積当たりの販売効率を高めることを重視してきた社風のなかで、直接、利益を生まないコミュニティサロンを新館の中に確保するのは苦労した」と日本橋本店の上野仁e―ビジネス推進室長は打ち明ける。昨秋の新館開業は三越が呉服商から百貨店に転換して百周年の記念事業だったが、三越全体としては2005年2月期の営業利益は7%減の152億円にとどまり、新館効果は限定的だった。国内の販売不振に加え、従業員の早期退職に伴う損失なども計上したため、連結最終損益は40億円の赤字だった。





従業員千人の早期退職、横浜店や大阪店などの閉鎖といった厳しいリストラを続ける中で、三越はブログを使った顧客との対話という小さな改革を進める。オフ会に参加した関口さんは「ブランド品は専門ショップで買うことが多かったが、今は三越の店頭を見てから、商品を選ぶようになった」と話す。三越のブログに「食コラム」を執筆する料理研究家のいとうゆきさんも「ブログのオフ会で集まるメンバーとの旅行を考えているが、そのときは三越トラベルセンターを使う」とエールを送る。





三越はこれまでも前払い方式で買い物券などを受け取れる会員組織「三越友の会」を運営するなど顧客の囲い込みには手を打ってきたが、特典目当ての会員を増やすだけではコミュニティーは形成できなかった。コミュニケーションが自然に沸き起こる共同体を育みながら、顧客による「応援団」を増殖させる作戦が実を結ぶのか、老舗百貨店の挑戦は続く。





新聞業界で初めて本格的にブログを自社のニュースサイトに導入したのは神奈川新聞社だった。新聞記事をネットで紹介する新聞社の典型的なニュースサイト「神奈川新聞ウェブ」に見切りをつけ、2月にブログを採用したコミュニティーサイト「カナロコ」を立ち上げた。現在、会員数は4千人。横浜ベイスターズを応援するブログ「ベイスターズフィーバー」を中心にファンのコミュニティーの形成が進んでいるという。





サイトの全面更新から2カ月後の4月には、神奈川新聞社の記者が取材したニュースについても、閲覧者がコメントを書き込める機能、ブログ間で相互リンクを簡単に張れるトラックバック機能というブログ本来の仕組みを導入した。地域のごみ問題、神奈川県のゲーム規制問題など編集部で選んだ記事に関しては閲覧者同士が意見を交換できる仕組みを整えた。「カナロコ」の責任者である松澤雄一デジタルメディア局長は整理部長などを歴任し、新聞編集の経験が長いが、ブログの導入を機に発想を転換し「古いジャーナリズムは捨てよう。高みから読者に教えてあげましょうという姿勢はやめよう」という意識で「カナロコ」を運営していると強調する。





ニュースの重要性は「カナロコ」編集部側が判断せず、コメントやトラックバックなどを通じて読者にそれを問いかけるという発想だ。ただ、神奈川新聞社は「カナロコ」から把握できる読者のニュースへの関心度などの情報を新聞の紙面に反映させる体制にはなっていない。読者にこびる紙面づくりはしないという考え方もあるのだろう。新聞社の電子メディア事業としては、広告収入を増やせるのか、課金制を導入できるのかといった判断が定まっておらず、明確な収益モデルが確立できていないといった課題も残っている。





新聞社が提供するニュースを話の種にコミュニケーションする共同体は新聞社にとって財産となり得る。ニュースというコンテンツ(情報の内容)が売り物である以上、その共同体は「ロイヤルカスタマー」の集合場所になるからだ。「ネットは新聞を殺すのか」などの著者で、ブログ記者でもある時事通信社の湯川鶴章編集委員は「仮に神奈川新聞社への誹謗(ひぼう)中傷がコミュニティーサイトに書き込まれても、ブログで勝ち取ったファンが反論して守ってくれるだろう。大手の新聞社では真似できない試みではないか」と指摘する。





顧客と向き合う百貨店、読者と向き合う新聞社――。古い歴史を持つこの両業種は実は同じ問題に直面しており、その中で三越と神奈川新聞社がブログを活用してコミュニティーを形成させる戦略に打って出たと言える。モノは街に溢れかえり、日本橋の三越に来店しなくとも、消費者は欲しい商品は買える。情報やニュースもネットに溢れかえっており、読者は特定の新聞社のサイトでニュースを閲覧する特別な動機を持たない。こうした現状に対して解決の糸口を見出そうとする試みが、ブログによる共同体を基盤にしたコミュニケーションだった。













































「グーグルゾン物語」を読み解く(4)

「JRの脱線は知人が携帯電話に送ってきた写真で知った」――。日経メディアラボは大ニュースの発生がどんな手段で伝わるのかを探るため、兵庫県尼崎市での脱線事故を例にインターネット調査(6月に実施)で情報収集の方法を約千人に聞いてみた。テレビ、新聞、ネットを組み合わせて事故の情報を入手する人が最も多かったが、携帯電話で第一報を知ったという人も少なくなかった。カメラ付き携帯電話の普及に伴い、知人から受信した写真がニュースの第一報だったという人が今後も増える可能性は高い。「グーグルゾン」を読み解く最終回は市民がニュースを発信する時代を検証する。









wifiPod 「EPIC2014」の続編には、米アップルコンピュータの携帯音楽再生機「iPod(アイポッド)」が進化した機種として、無線LAN(構内情報通信網)機能とカメラを搭載した「ワイファイ・ポッド」=写真=が登場する。ネットを使った簡易型ラジオ放送「ポッドキャスティング」も進化して、映像を含んだコンテンツ(情報の内容)をワイファイ・ポッドで送受信するというコミュニケーションが流行するというのがグーグルゾンの物語だ。





映像ニュースの取材方法はフィルムで撮影する取材方法からビデオテープを使うENG(電子ニュース取材)、衛星を使いニュース素材を伝送するSNGへと進化してきた。カメラ付き携帯電話のブロードバンド(高速大容量)化が進めば、市民が発信する映像情報を集めて構成する「PNG(ポッド・ニュース・ギャザリング)」の時代が到来する日も近いだろう。ロンドンの同時テロ報道でも市民が携帯電話のカメラで撮影した事件現場の写真や映像は頻繁にニュースの素材として使われた。市民が撮影した映像を報道機関が積極的に活用する現象を「ポケットジャーナリズム」と呼ぶ人もいるようだ。PNGの「P」はポケットジャーナリズムの「P」と言えるかもしれない。





米クリントン政権で副大統領として「情報スーパーハイウエー構想」を提唱したことで知られるアル・ゴア氏はネット検索最大手の米グーグルと連携して、若者向けテレビチャンネル「カレント」の準備を進めている。視聴者が自作ビデオをカレントのサイトに投稿し、ネットによる人気投票でテレビ放映する作品を決めるという。





「ブログ(日記風の簡易型ホームページ)への書き込みに始まり、携帯型カメラでの画像撮影や映像リポート、そして綿密な調査報道にいたるまで、今や誰もが記事を寄稿するようになり、多くの人がそれで稼ぐこともできる。記事の人気に応じて、グーグルゾンの巨額の広告収入の一部を得るのだ」。こんなEPICの一節をゴア氏らが意識しているかどうかにかかわらず、EPICが語るメディアの近未来を連想させる話題は増えている。カレントは「ビデオブログの実験」とも言われており、視聴者という立場だった市民が映像を使って自ら情報発信する時代の本格的な到来を予感させる。





市民によるニュース発信をネットの世界で実践している例としては韓国のネット新聞「オーマイニュース」が有名だ。創刊は2000年2月。「市民参加型ジャーナリズム」を掲げて、5年以上の実績があり、記事を投稿する市民記者は3万6000人にのぼるという。記事の反響の大きさに応じて、読者から提供される原稿料がアップする仕組みを採用しており、広告料収入の一部を記事の人気の高さに応じて執筆者に配分するグーグルゾン方式に似ている。





オーマイニュースは2003年に黒字転換を果たした。メディア企業の経営者としても成功を収めつつある呉連鎬社長は6月の来日時には経済ニュースの強化に加え、携帯電話向けデジタルマルチメディア放送(DMB)へのニュース番組提供などにも意欲を見せ、市民参加型の手法を映像分野にも広げる考えを強調していた。オーマイニュースの成功例はメディア企業の多くが注目しており、ネットを活用した新しいビジネスモデルを模索する米国の新聞社などもオーマイニュースを積極的に研究している。





日本でもネットの世界に「オーマイニュース」モデルを導入しようとする動きは一時期、活発だった。ライブドアの堀江貴文社長も「オーマイニュースを参考にして、日本でも市民ジャーナリストとして市民一人一人が注目される記事を書けば、誰でも情報の一次的な出し手になれる」などと発言。「グーグルゾン」をも意識した発言と見られたが、その後、同社は無線LAN事業への参入も表明した。





市民記者によるニュース発信はライブドアのほか、ネット新聞「JANJAN」などが試みているものの、現段階では成功と呼べる事例がほとんどないのが実情だ。呉連鎬社長は著書「オーマイニュースの挑戦」のなかで、日本の現状を「(市民が記事を投稿できる)インターネット広場を開いても若者の参加が低調」と分析している。





オーマイニュースの売り物は政治ニュース。これが韓国の既存メディアや政界に不信感を募らせていた若者に受け入れられた。一般に日本では若者は政治への関心が低く、むしろ生活や地域に密着した話題のほうが、市民の情報発信になじみやすいようだ。日本の新聞社でブログを初めて本格導入した神奈川新聞は「県知事の発言についてのニュースよりも生活に密着したゴミ問題、鉄道の話題などに(読者からの)コメントが寄せられる」(松澤雄一デジタルメディア局長)と市民からの反応について分析している。





「ジャーナリズム」と大上段に構えるよりも、生活密着型の情報を交換するコミュニティーを形成する手法の方が、呉連鎬社長が「インターネット広場」と表現する言論空間を日本のネット社会に根付かせやすいのかもしれない。神奈川新聞の松澤局長はブログサイト「カナロコ」で情報を発信する市民について「(サイトに情報を寄せてくれる)『ホロホロさん』が市民記者という意識はない。『市民』として情報を発信している」と説明している。





ただ、ゲーム規制問題をめぐって神奈川県知事のブログにコメントやトラックバックが殺到したように、今後も「サラリーマン増税」問題など生活に密着した話題を中心に市民の発言が誘発される事例は日本でも増えると見られる。ブログやポッドキャスティングの仕組みを活用した市民による情報発信が一般的になれば、既存メディアの記者と市民がニュースや評論の発信者として共存する時代も訪れるだろう。





米国では記者の取材源秘匿をめぐる問題が注目されている。取材源を明かさなかったニューヨーク・タイムズ紙の記者が収監されてしまったため、記者に「取材源の秘匿」を理由に裁判で証言拒否できる特権を認める連邦法をつくる必要があるとの議論が活発になっている。しかし「市民記者」が台頭するなかで、プロの記者だけに特権を付与することは困難だとの見方もある。メディア部門を持つテロ組織を取り締まれなくなるという懸念もあるという。





日本でも証言拒絶罪で朝日新聞社の記者が起訴された事件が過去にあり、米国と同様の問題は今後も起こりうる。そもそも記者とは特権を持つ存在ではなく、「市民の代表」という存在のはずだが、既存メディアの記者と市民記者が共存する時代は両者の境目をどこに設けるのかという問題を突きつける。グーグルゾン物語が問いかけているメディアをめぐる社会的な課題は多い。





















































2005年7月25日月曜日

「グーグルゾン物語」を読み解く(3)

「グーグルゾン」は莫大な広告収入を想定している。おそらく、広告モデルは現在の検索連動型広告を中心としたものになるだろう。同広告は、安い広告費で
ユーザーをウェブサイトへ誘引でき、広告主の裾野を広げた。検索と連動する広告はユーザーの嗜好と合致し、効果が高いと言われている。コンテンツをパーソ
ナライズするので、検索連動型広告をそのまま利用できそうだ。米国の調査会社eMarketerは同広告が04年度のオンライン広告全体の42%、総額39億ドル(約4000億円)に達したとしている。



また、「グーグルゾン」のリーチが広がり、広
告主がマスメディアとして認め、マス広告の市場を獲得することも考えられる。米国では、検索連動型広告が成長し続けているが、ブランド効果を期待したオン
ライン上でのディスプレイ広告(バナー広告など)も成長している。サイトに誘導する検索連動型に加え、ブランド価値を高めるディスプレイ広告と両方のタイ
プの広告が「グーグルゾン」の収益源となる。


しかし、日本でもこうなるのだろうか。米国と同じようには進まない可能性もある。日本はテレビを最も見ている国で、Eurodata TV Worldwideによると、1
人あたり1日平均5時間。2位の米国より約30分長い。テレビ広告の効果が依然高いとされており、当面は安泰との見方もある。ただ、ハードディスクレコー
ダーの普及で、テレビ広告の効果が薄れることを懸念している広告会社は、「テレビ広告プラス検索連動型広告」の組み合わせという新しい形態を提案し始め
た。


この手法は15秒のテレビCMで表現しきれな
いことをウェブサイトに誘引して補完する考え方で、テレビCMで強調したキーワードを検索連動型広告で買っておくことにより、確実にユーザーをウェブサイ
トに誘引する。視聴率以外の指標がなかったテレビ広告に、「広告主のサイトへの誘引数」という新しい目安が生まれた。


結果も一部出ている例として、三井不動産の高
層マンション「芝浦アイランド」のキャンペーンは、「芝浦」「芝浦の島」「芝浦アイランド」などのキーワードを購入した。テレビCMの放映直後に検索エン
ジンからの誘導によるウェブサイトのアクセスが増加したというデータも取れているようだ。最新の事例では、NECの携帯電話FOMA N901iS「Nを追え」キャンペーンで、「Nを追え」、「N」と「追え」のANDなどがキーワードになっており、これからもテレビCMには検索連動型広告を組み合わせることが増えていくだろう。


それでは「グーグルゾン」のパーソナライズドメディアに検索連動型広告以外の可能性はあるのか。日本のオンライン広告の現状と広告会社、広告主(宣伝部)の意見から、可能性を探ってみた。


オンライン広告はバナー広告から始まり、オプ
トインメール、検索連動型、コンテンツ連動型、行動履歴参照型といろいろな形態があり、技術の進歩および効果を最大にしようとする努力から常に進歩してい
る。また、ディスプレイ広告では動画を表示するなど、クリエイティブに力が入れられるようになった。


売り方では、ターゲットしたユーザー向けの
ターゲティング広告が注目され、米国ではある程度定着した。検索連動型も広く解釈すれば、ターゲティング広告と成果報酬型の組み合わせで、パーソナライズ
ドメディア向けの広告は、ターゲティング広告の進化系の可能性が高い。ただし、単価を高く設定するターゲティング広告は、ほとんど日本で普及せず、仮に
パーソナライズドメディアが普及しても、広告がパーソナライズドとなるかは微妙なところだ。


また、広告会社、広告主ともパーソナライズド
広告を否定しなかったが、課題が多く、主流にはならないと見ている。もし、パーソナライズドの効率化により、企業の広告費を削減できるとしても、業界全体
で「ターゲット層により深く」を主体とする考え方が浸透しなければ、一社だけスタイルを変えるのは難しいとしている。


パーソナライズド広告で想定される課題は①キャンペーンのターゲットを明確にするのが困難②複数のクリエイティブが必要となり、作業は煩雑に、コストも増大③広告効果の測定が困難――など。


①キャンペーンのターゲットを明確にするのが
困難:広告キャンペーンはある程度ターゲットを絞っているが、必ずしも広告主が想定したターゲットは実際の購入層と一致するとは限らない。もし、パーソナ
ライズド広告で想定したターゲット層のみに露出すると、「想定外のユーザー」を落とし、実際の購入層へのキャンペーン到達ができなくなってしまう。


②複数のクリエイティブが必要となり、作業は
煩雑に、コストも増大:同じ商品でもターゲットが異なれば、伝えるメッセージも変わる。もし、広告をパーソナライズドとするのであれば、メッセージもパー
ソナライズする必要がある。クリエイティブを複数用意することになり、作業は煩雑になり、制作コストも大きくなる。


③広告効果の測定が困難:複数のクリエイティブを使い、それに対応したターゲット層に広告を露出することにより、変数の要素が増え、広告効果の測定が困難になる。


パーソナライズド広告は宣伝部のブランド広告
予算より事業部管轄の販促費、ダイレクトレスポンス(DR)の大枠に入れた方がわかりやすい。DRの中にDM(ダイレクトメール)、Eメール広告などが含
まれ、現在全体の3~5割がネット広告になっている。注目すべきは、デルのようにDR目的のキャンペーンをマス広告で試している広告主が出てきている点だ
ろう。ネットでも同じキャンペーンを展開し、効果のある媒体を評価しているようだ。


DRは完全に効率重視なので、パーソナライズド広告で効果があれば、企業の予算枠を確保できそうだ。ただし、パーソナライズド広告はコスト、手間などの課題があり、すぐに実験というわけにはいかない可能性がある。


ネット広告代理店のアウンコンサルティング
��東京・千代田)の調査によると、2004年の検索連動型広告の市場規模は前年の3.3倍の350億円。今後も順調に成長していくと予測している。「グー
グルゾン」時代の広告モデルは、現時点で検索連動型中心と予測するのが無難だろう。
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2005年7月14日木曜日

「グーグルゾン物語」を読み解く(2)

temp1 グーグルゾン誕生のストーリーは緻密な分析によるものなのか、それとも荒唐無稽な空想なのか。メディアの未来を描いた「EPIC2014」という約8分間の映像作品は米フロリダ州にあるジャーナリスト向けの非営利教育機関、ポインター研究所出身のロビン・スローン氏とマット・トンプソン氏が製作した。









ポインター研究所の情報サイトなどによると、スローン氏は2002年にミシガン州立大学を卒業し、同年6月から翌年6月まで同研究所に在籍。04年11月からサンフランシスコの独立系ケーブルテレビ局「INdTV」でプロデューサーを務める。スローン氏は現在、アル・ゴア前米副大統領らが準備している視聴者参加型の若者向けテレビチャンネル「カレント」の立ち上げメンバーの一人に名を連ねている。





トンプソン氏も02年にハーバード大学卒業後、ポインターに在籍した。04年から「Fresno Bee」という新聞社でオンラインコンテンツ(情報の内容)を担当するプロデューサーに就いている。両氏の経歴や「ニューヨークタイムズはエリートと高齢者向けのニュースレターになった」とする作品の結末から考えると、作品は既存のジャーナリズムに対する警鐘を意図して製作されたようだ。





昨秋の作品発表後、両氏は多くのジャーナリストから「こんなものを人々は欲しない」との批判を浴びた。既存のメディア側はEPICの発想を認めようとせず、報道機関のブランド力や信頼性を盾に反論した。トンプソン氏は既存メディアの反発について「今まで競合相手とは考えられなかったネット企業が同じビジネスの土俵に現れることを既存メディア側は信じたくないのではないか」と見ている。このほどEPICは2014年以降の続編も登場した。既存メディアからの反発に懲りることなく、メディアの未来を模索する姿勢は変わらないようだ。





グーグルとアマゾンが合併するかどうかは別として、少なくとも電子媒体の世界ではパーソナライズドメディアが主流になるという予測は十分に現実味がある。例えば、キーワードによる検索で電子番組表から好みのテレビ番組を抽出して自動的に録画するHDD(ハードディスク駆動装置)内蔵レコーダーは着実に家庭に浸透している。「自分好み」をかなえてくれるデジタル技術の進化はパーソナライズド・ニュース・メディアの登場を予感させる。





日経メディアラボは6月、独自にパーソナライズ ドメディアへの関心を探るアンケートを実施した。過去に閲覧したニュースの内容に応じて、読者の関心があると思われるニュースを自動的に選択し、ユーザーごとに見出しなどを表示するサービスについて、インターネット調査で全国千人に聞いたところ、「とても興味がある」との回答は9.6%だった。「やや興味がある」(39.2%)との回答を加えると、48%が関心を示すという結果だった。年齢別に見ると、関心を抱く層は20代が69%、30代は61%と特に若い世代に多かった。





金融情報会社のQUICKはパーソナライズドメディアを意識した新サービス「アラートメール」を準備中だ。ユーザーが必要な銘柄を登録しておけば、上場企業が東京証券取引所経由で発信する適時開示情報を即時に携帯電話のメールで受信できる。情報の取りこぼしを防ぐためにパーソナライズしたニュース速報が必要という声は証券マンなどに多く、プロ向けのサービスとして需要を開拓する。





楽天証券はこのほど携帯電話に市況やチャート情報を短時間で更新して提供する個人投資家向けサービスを始めた。チャートは5分足、日足、週足、月足をそれぞれ80本表示可能。楽天証券に口座を持っている顧客は携帯電話のパケット通信代を負担するだけで、サービス自体は無料で利用できる。同社の三木谷浩史会長(楽天社長)は「月間の使用料が15万円もするような情報端末を使いながらディーリングルームでやっていた取引が、携帯電話でどこでもできる」と強調する。





パーソナライズした情報を提供するサービスは金融分野だけでなく、グーグルやNTTレゾナント(東京・千代田)の「goo」などが一般向けにも始めている。「goo」はNTTサイバーソリューション研究所が開発した「高効率類似文書検索エンジン」を採用。過去に閲覧した記事20件のデータと各記事から自動的に抽出したキーワードを比較し、指定したキーワードをより多く含む類似記事4本と写真記事1本を選び出す。





NTTレゾナントは昨年のアテネオリンピック特集面での実験結果が良かったため、正式な採用に踏み切った。実験では「おすすめ」ニュースを示した場合、通常のニュースよりも閲読率が8-10倍に高まったとしている。ユーザーの認識は「クッキー」と呼ばれる閲覧履歴の情報を利用し、クッキー内に20記事分のデータを保持する。興味がない記事をユーザーが見た場合は、自ら閲覧履歴から削除する機能を付け、パーソナライズドニュースの精度を上げることもできる。





新聞社がパーソナライズドメディアを手掛ける場合、既存の紙媒体との相乗効果を期待できる。新聞の購読を中止する人の理由の多くは「読む時間がない」だが、必要な情報を効率的に短時間で入手できるパーソナライズドメディアは紙媒体の販促ツールになる可能性がある。「あなたが関心を抱いているこの記事の背景記事は朝刊のこの面に掲載しています」などと告知して紙面に誘導することも考えられる。





ただ、パーソナライズドメディアが実用レベルに達するためには課題も少なくない。「おすすめ」機能の精度を高めないと、単におせっかいなサービスになってしまう。新聞の一覧性を評価する意見も多く、メディア研究者の中には「パーソナライズドメディアは各個人に対して情報の孤立化を生む恐れがある。結局、ゆり戻しが起きてニュースを一覧できるメディアを見直すことになる」との見方も根強い。


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2005年5月27日金曜日

「グーグルゾン物語」を読み解く(1)

「グーグルゾン」という名前のインターネット企業をご存知だろうか。ネット検索サイト「グーグル」などでこの社名を調べてみれば、その正体はすぐに判明する。昨秋、ネットで広まった米国メディアの将来を予測する短編映像「EPIC2014」に登場する架空の企業のことだ。この映像作品が皮肉混じりに描いたのは、グーグルなどの新興ネット企業がニューヨーク・タイムズをネット事業撤退に追い込むという10年後の「業界地図」だった。









EPIC(Evolving Personalized Information Construct、進化型パーソナライズド情報構築網)は各個人の好みに合った情報を手軽に入手できる「パーソナライズドメディア」の可能性を浮き彫りにする。ネット小売り大手の米アマゾン・ドット・コムが消費者の好みに応じて書籍を推薦して売り込む「リコメンデーション機能」をバネに急成長した経緯を紹介しながら、物語は2008年にグーグルとアマゾンが合併し、「グーグルゾン」が誕生すると“予言”。一人一人の嗜好を把握して、それに合ったニュースや広告などのコンテンツ(情報の内容)をカスタマイズして提供する情報インフラを構築する「強者連合」が登場するという筋立てだ。





ほとんどのメディア関係者はこのフィクションを一笑に付してきた。ただ、グーグルが5月に「パーソナライズ・ユア・グーグル・ホームページ」というサービスを公開し、ニューヨーク・タイムズや各種のブログなどから得られる情報を自分好みにホームページに割り付けられるようにする仕組み導入したことなどから、EPICが描く未来に現実の方が近づいてきたと見る向きもある。「グーグルゾン」の物語を読み解くことでデジタル時代のメディアのあり方を考えるヒントを探れるかもしれない。





EPICのような発想は米マサチューセッツ工科大学のメディアラボが提唱した「パーソナル新聞」のように以前から存在する考え方ではあるが、「あなたが関心のあるニュースはこれですよ」と示してくれるニュースメディアが現実になりつつあることを示す事例は多い。英フィナンシャル・タイムズ紙は3月、金融情報サービス大手の英ロイター・グループが個人向けにニュース配信する準備をしていると報じた。ロイターのトム・グローサーCEO(最高経営責任者)は「パーソナライズド・ニュース・サービス」を個人向けに手掛ける意向を示している。





パーソナライズドメディアへの潜在需要は読者、広告主に存在していたが、日本でも今年から顕在化する可能性が高い。NTTレゾナント(東京・千代田)が運営するポータル(玄関)サイト「goo」もEPICを意識したようなパーソナライズドサービスを3月末に開始した。「新聞をじっくり読んでいる暇はない。携帯電話で自分に必要なニュースだけを通勤電車の中でチェックしておきたい」というビジネスマン、「新製品の購買層として想定している消費者にだけ確実に製品情報を伝えたい」という企業のニーズに対応するメディアは今後、ますます存在感を強めるだろう。





昨秋にネットにお目見えしたEPICが今になって日本のメディア関係者に注目されるのはEPICが既存メディアと新興メディアの対決の構図を描いているからでもある。日本では「ライブドア事件」という形でこのフィクションの一部が現実化したとも言える。新旧メディアの融合とともに同社の堀江貴文社長はパブリックジャーナリスト育成も経営方針として打ち出した。現段階ではこの構想が軌道に乗ったとはいえない状況ではあるが、ブログを書く記者による「市民参加型ジャーナリズム」の発想は堀江社長自身、韓国のネット新聞「オーマイニュース」がモデルであることを公言していた。





EPICはオーマイニュースのようなメディアが進化して、ブログの書き込み、ビデオ映像の投稿などで誰もがニュースを発信し、その情報を誰もが自分に必要な分だけ受け取れるという近未来を予測する。物語はニューヨーク・タイムズがネットから撤退するという結末だが、現実には米国の新聞社による新興ネット企業の買収が相次いでおり、むしろ新聞社の攻めの姿勢が目立つ。日本の既存メディア、特に新聞は攻めに転じ切れていないとされるだけに、「グーグルゾン」物語は次世代のメディアを考えるための研究材料というだけでは済まされないかもしれない。


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