2005年11月11日金曜日

再びグーグルゾンを読み解く(1)「グーグルゾン」誕生前夜

インターネット企業とメディア企業の覇権争いが相次ぐ2005年。変化のスピードが加速するメディアの未来を考えるヒントとして、「EPIC2014」と題するSF短編映像が昨秋から今春にかけて日本のメディア業界に伝わったことは記憶に新しい。この映像作品に登場する米国のグーグルとアマゾン・ドット・コムの幹部がこのほど相次ぎ来日。両社の戦略が伝わるにつれ、「EPIC」を再検証する必要性も浮かび上がってきた。今春に続いて、再び「グーグルゾン(Googlezon)」の物語を読み解いてみる。



日本経済新聞社などが10月に開催した「世界経営者会議」。グーグルのエリック・シュミット会長兼最高経営責任者(CEO)は会議の席上、世界中の書籍を電子化する構想について「本を無原則にコピーさせるつもりはなく、検索により埋もれていた本の購入を促すのが目的だ」と力説した。「電子図書館」計画は一部の出版社が反発しているものの、シュミット氏は強気な横顔をのぞかせる。EPICに登場する架空企業のグーグルゾンは米ニューヨーク・タイムズと著作権をめぐる係争を最高裁まで繰り広げるタフな企業として描かれているが、グーグルゾンの前身にあたるグーグルも現実の世界で攻めの姿勢を崩さない。


埋もれていた過去の出版物の販売を促進するという戦略は、グーグルゾン物語のもう一つの主役、アマゾンの姿と重なり合う。アマゾンは顧客の購買履歴に基づくレコメンデーション(推薦)機能を武器に、売れ筋商品以外も薄く広く売り込む「ロングテール商法」を確立し、成長を続けてきた。グーグルはアマゾンのように物流機能も抱え込んだ物販にまでは踏み込まないが、得意分野の検索技術を活用して販売促進の分野に切り込んでいく方針だ。あらゆる電子化された情報を束ね、閲覧者のリーチ(到達)を極大化することで広告収入を増やすという従来の戦略一辺倒ではなくなる兆しを見せる。


Amazon_1  グーグルのシュミット氏が講演した3日後の10月28日。アマゾンのカル・ラーマン上級副社長=写真=も東京都内で講演し、書籍の電子化に関連した新サービスを日本でも始めると表明した。アマゾンジャパンは講談社など280社の協力を得て、キーワードによる検索で本の中身をネットで閲覧できるようにした。このサービスは米国で2年間の実績があり、米アマゾンは来年からは書籍のページを「立ち読み」するだけでなく、必要なページがあれば、ページ単位で購入できるようにする。書籍を配送するビジネスだけでなく、テキストのコンテンツ(情報の内容)をネット配信する事業に本格参入する構えだ。


検索したコンテンツをネットで提供する手法はグーグルの狙う事業領域と重なり合う。グーグルのアマゾン化、そしてアマゾンのグーグル化――。「EPIC」は両社が合併して新会社「グーグルゾン」が誕生するという話だが、実際に両社が合併するかどうかを議論することに意味はない。コンテンツをかき集めて、提供することで圧倒的なリーチを誇るグーグル。書籍以外にも幅広い商品を扱い、消費者の購買履歴を握るアマゾン。両社の強みを合わせ持つ「グーグルゾン」型企業こそが、メディアとして、マーケティングの巨大システムとしてネットの覇権を握るという現実を重視すべきなのだろう。


Raku_1 最近、日本で「グーグルゾン」志向を強めている典型的な企業は楽天だ。グーグル型の検索ポータル(玄関)サイトも手掛けているが、リーチは国内トップのヤフーに及ばない。楽天のグーグルゾン志向はアマゾン型企業のグーグル化という構図。三木谷浩史社長=写真=は常々、「3000万人の会員データベースが強み」と力説している。TBSとの経営統合構想をめぐっては楽天のポイント制も活用しながら、番組や広告を個々の会員にレコメンデーションする戦略を打ち出している。リーチを極大化できる展望が開ければ、顧客のニーズを個別にきめ細かく刈り取れる会員データベースが強みを増すことになる。


グーグルの圧倒的なリーチ、アマゾンの膨大な消費履歴データ。この2つを握る「グーグルゾン」型企業は「不特定多数」の相手にコンテンツを一方的に送り出すだけのマスメディアとは根本的に異なる事業基盤を持つ。顧客データベースを活用して「特定多数」の顧客に対して個別にコンテンツをフィード(提供)するインフラを握るからだ。楽天は単に映像コンテンツの確保を狙ったのではなく、楽天・TBS連合軍でリーチを極大化しようと呼びかけたはずだったが、資本をめぐる攻防戦に陥り、構想は暗礁に乗り上げている。


「3年後に三木谷の言っていることは正しかった、ということになる」。三木谷社長はメディアの未来を見据えた主張に自信を見せる。「消費者はネットで買い物をするようになる」という仮説を現実の話にしたビジョナリー(予言者)としての自負心もあるのだろう。北京五輪開催などが予定される3年後、デジタル家電は日本の各家庭に本格的に普及すると見られている。メディア企業やネット企業が本格的なデジタル時代への布石を打とうとしているとき、「EPIC」はこう語りかける。2008年、グーグルゾンが誕生する。


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