2008年12月24日水曜日

2009年のメディア予測――ネット空間、「息抜きの場」なのに息苦しい

需要が細分化したネット空間のイメージ(イラスト・山根あきひこ)
 日経メディアラボは「2009年のメディア予測」をまとめた。利用者にとってインターネットは「息抜きの場なのに息苦しい」存在になっていくと分析。息苦しさを和らげるためにネットサービスに対する人々の需要が細分化し、快適さを売り物にした有料サービスも増えると予測している。(12月22日付の日経産業新聞にも記事)



→詳細はニュースリリースをご覧ください
(クリックするとPDFファイルが開きます)



(イラストは山根あきひこ)



 ネット調査会社のヤフーバリューインサイト(東京・中野)と共同でネット利用者調査を実施し、結果を分析して予測をまとめた。全国の20~50代の男女ネット利用者計1500人から回答を得た。

 調査ではネット上のコミュニケーションを「息抜きの場だ」と感じている人ほど、同時に「息苦しい」とも回答。1年前の調査結果と比べ、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に対して「だれかとつながっている感覚」と「居心地の良さ」を求める人が急減している。

 今後は、より居心地の良い環境を求めてネットサービスを使い分けたり乗り換えたりする人が増え、新たなヒットサービスが生まれにくい状況になるとみている。





■これまでの「メディア予測」
2008年 ~ネット利用「お茶の間テレビ」型に
2008


2007年 ~分身を使いコミュニケーション
2007


2006年 ~コックピット型の個人サイトが登場
2006


 


2008年12月19日金曜日

任天堂とはてな「京都発」でタッグ・マッシュアップ基盤構築で

Nintendo_hatena  任天堂とはてなは18日、ゲーム機で作成したコンテンツの共有サービスを開始すると発表した。同じ京都に本社を持つ老舗とベンチャーが手を組み、新たな事業に乗り出す。(写真は小泉歓晃任天堂ゲームプロデューサー=左と近藤淳也はてな社長)



 今回発表したサービスは、任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDSi」用のゲームソフト「うごくメモ帳」を使って利用者が作成したパラパラマンガをネット上で公開できるというもの。同ソフトは12月24日から任天堂が無料で配信する。タッチペンを使い手書きのメモを記録できるほか、自由に描いたイラストを重ねてパラパラマンガを作成する機能があり、音声を加え動画コンテンツとして友人に送る、という楽しみ方が可能になっている。


 完成したパラパラマンガをゲーム機の無線通信機能で「うごメモシアター」に送信すると、他のプレーヤーもゲーム機でその作品を見られるようになる。公開された作品をダウンロードし、絵や音声の追加など変更を加えて別の作品として公開する「マッシュアップ」を行いやすくしているのが特徴。改変されたくない場合は「ロックする」と設定すればマッシュアップはできない。ゲーム機を持たない人も、パソコンや携帯からウェブサイト「うごメモはてな」にアクセスして作品を見たり、自分のブログに貼り付けたりできる。


 ゲーム機は多くの小中学生が利用していることもあり、有害情報の投稿・閲覧への対策が不可欠となる。このサービスでは、まずウェブサイトである「うごメモはてな」で公開し、一定の時間通報などがなければゲーム機でも閲覧できるようになる、という仕組みを採用する。はてなが最初に手がけた「人力検索はてな」を連想させる、人の力によるフィルタリングだ。


 会見ではてなの近藤淳也社長は「はてなは『京都発、世界』を目指している。新しいパートナーは、まさにそれを実践している企業だ」と任天堂を紹介。任天堂情報開発本部のゲームプロデューサー、小泉歓晃氏は、UGC(ユーザー作成によるコンテンツ)事業に乗り出すには特有のノウハウが必要と考え、はてなにこのプロジェクトを持ち掛けたという。その経緯について「はてなが持つ技術の質の高さは知っていたし、任天堂とも社風が似ている」と小泉氏が話すと、近藤社長が「任天堂と一緒に仕事ができること自体に大きな魅力を感じた」と返すなど、相思相愛ぶりを強調した。


■関連リンク
「うごメモはてな」のウェブサイト

http://ugomemo.hatena.ne.jp/


2008年12月12日金曜日

情報の「組み合わせ爆発」へ対応急げ――MITメディアラボ・石井裕副所長インタビュー

Hishii_2  「ロサンゼルス・タイムズ」を発行する米新聞大手トリビューンの経営破たんは、米国新聞業界の再編につながることが予想される。これは米国だけの、新聞社だけの問題ではない。デジタル・シフトによる広告収入の減少に不況が追い討ちをかける形で、メディア業界全体が世界的な再編の渦に巻き込まれようとしている。



 1995年から米マサチューセッツ工科大学メディア研究所(MITメディアラボ)でデジタル情報に形を与え直接触れて操作する「タンジブル・ユーザーインタフェース」の開発を進めてきた石井裕教授が、今年同研究所の副所長に就任した。世界最高レベルの知識集団を率いる石井教授に、マスメディアの行く末について見方を聞いた。


 


情報は複合的に爆発している


 情報社会を地球に見立てると、昔は情報というマントルが、マスメディアという巨大な火山を通じて地表に噴き出していた。しかし今はあらゆるところに出口があって、情報があふれ出している。


 そういう中で、人は世界中の新聞を読み比べたり、RSSリーダーで様々な人の視点を参照したり、ソーシャルブックマークやソーシャルタギングでキーワード抽出するなどして、必要な情報を得ている。さらに知人との会話や、偶然見かけたものごとなども加え、すべての情報を総合的に分析し、行動しているのだ。


 米国の作家、トム・クランシーの小説に登場するCIA職員ジャック・ライアンは情報分析のプロフェッショナルで、収集した様々な情報を組み合わせて分析し、自分なりの判断を下して行動する。そうした点と点をつないでいくような作業が、ネット社会では当然のものになりつつある。


 情報爆発という言葉もあるが、今の状況は情報と情報とが複合されることでより大きな爆発を呼ぶ「組み合わせ爆発 (Combinatorial Explosion) 」であることを意識しなくてはならない。


メディアに求められる役割


 では、メディア企業は単に組み合わされるべきパーツとしての情報を供給するだけの存在になるのか。そうなりたくなければ、何をすべきなのか。


 そのひとつは、情報をコーディネートする仕組みをつくる、ということだろう。混沌とした組み合わせ爆発の世界で、必要としている情報を必要としている人に届けるマッチングのシステムだ。そしてそこでは、なぜその人にその情報を勧めるのかという理由を明確に伝えられることが重要になる。


 例え話をしよう。あるショップの店員が客に対してネクタイを勧めるとする。「このネクタイはいいものですよ」というのが、これまでのマスメディアのやり方だ。これから必要なのは「あなたがコミュニケーションする相手は誰で、そういう人が価値を見出すのはこれで、そしてあなたが望むコミュニケーションの目的はこうだから、このネクタイを身に着ければうまくいく可能性が高くなりますよ」と言ってあげることだ。さらに他の選択肢も提示する。そうしたコンシェルジェ的な発想、まさしくインテリジェンスが、メディアに求められるようになる。


 それを実現するためには、まず人々がどこで情報に触れ、どのように活用しているのか、つまり人とメディアが交差するフレームワークを的確に把握することが必要条件だ。


 そして500人、1000人の記者の視点ではカバーできないほど多様化した情報ニーズに答えるために、ひとつの会社の中で閉じることなく、世界中のあらゆる出来事や議論とリンクしながら情報を分析していくような手法を開発できるかどうかもポイントになるだろう。


 もちろん、それは簡単なことではない。「大衆」すなわちマスを念頭に置いた事業ではなく、限られた層、限られたセグメントの人々に対してそれぞれに必要な情報を配信していく、というモデルだからだ。その力があるか。技術があるか。スピードがあるか。そう考えると、やはり世界中のほとんどの企業がグーグルには敵わない。だからこそグーグルは怖いのだが、そういう怖さの本質を日本のマスメディアは理解していないのではないか。


ビジネスモデルをどう描くか


 現代は「情報はタダ」が当たり前の世界。これまでのような、コンテンツ流通の統制でマネーを生んできたようなビジネスはもうまかり通らないだろう。読者は様々なソースから得た情報をマッシュアップ(組み合わせ)して自分のメッセージを発信したいと思っているのに、そのニーズに答えられないからだ。


 流通に関する障害がない、シームレスな情報の海。そこに乗り出してはビジネスができない、と言うかもしれないが、そんなことはない。例えば、写真共有サイトの「フリッカー」は、一定の容量までは無料で使えるようにし、その価値を十分に理解させた上で、有料会員になれば容量が無制限になる、と持ちかける。これはコンテンツやサービスを空気のように提供して、費用を負担すればもっと快適な空気を吸うことができる、というタイプの手法だが、もちろん他にも方法はあるはずだ。


 メディアが持っている情報をもっと自由に検索できる状態に置けば、われわれのような研究機関はもちろん、社会全体の役に立つ。目指すべきは、そういった人類の知識の集大成への貢献ではないか。現状では、宝の持ち腐れになってしまう。


 なのになぜ足を踏み出せないのか。著作権やルールに縛られている、ということもあるのだろうが、先に述べた情報活用のフレームワーク、言い換えれば社会全体で行う知識の再編集、再生産といった情報のエコシステム(生態系)の中で、メディアがどういうポジションを得るべきなのか、もう一度考えてほしい。


進化できなければ絶滅するだけ


 英国の巨大企業BTは、いち早く交換機型の電話回線をIP(インターネットプロトコル)網へ移行することで成長軌道に乗った。これは歴史的な事件だ。IPへ移行すれば既存のビジネスモデルが崩れ、収益が悪化するのは目に見えていたが「座して待っていてもこの流れは止められない、だったら先にやってしまおう」と決断したのだ。逆に決断を最後まで先延ばしすれば逆の、恥ずかしい意味で歴史に残ってしまう。


 マスメディアも進化の波に乗ることができなければ、絶滅した恐竜やマンモスのようになるだけだ。長い年月が経ってシベリア凍土の中から氷漬けになって掘り出され、後世の人類に見物してもらえるぐらいのことは期待できるだろう。それを望むというのなら何も言うことはないが、生き延びたいのなら、先に行って出し抜かなくてはならない。


石井 裕(いしい・ひろし)
1956年生まれ。80年北海道大学大学院修了、電電公社(当時)に入社。NTTヒューマンインタフェース研究所など経て、95年からMITメディアラボに勤務。今年5月に同研究所副所長に就任。
http://web.media.mit.edu/~ishii/index.html


2008年12月7日日曜日

テレビ番組のネット活用促進へ、新たな制度提案・コンテンツ学会

Shingikai  コンテンツにかかわる産業や政策などを総合的に研究するコンテンツ学会は、映像コンテンツのネット利用に新たなルールを提言するプロジェクトチームを設置した。有識者の意見交換を社会に公開しつつオープンに進める「民間審議会」を開催し、2009年2月に政策提言を取りまとめる。5日にその第一回会合が東京の早稲田大学で行われ、8人の委員が出席し議論した。



 世話役を務める早稲田大学大学院の境真良客員准教授は冒頭、民間審議会という手法を掲げたことについて「国の政策決定プロセスでは審議会を開くが、民間でももっと議論の場を設けるべき」とねらいを語った。対抗軸になろうというのではなく「一種のオマージュ」だという。また「もう話し合っているだけの時期ではなく、早急にオプション(選択肢)を提示しなくていけない」とも述べ、スピーディーな政策立案にもこの手法で貢献したいとの考えを示した。


 続いて境氏は「コンテンツのネット利用調整制度」を提案した。この制度は、膨大な映像コンテンツを管理し、影響力が大きいテレビ局に注目したもので、その所蔵コンテンツを無理なくネット上に流通させ、社会全体で共有することを目論んでいる。


 そこでは、テレビ局に対し既存の番組コンテンツのネットでの利用に関する許諾権(利用管理権)を与えるとともに、テレビ局が許諾権を行使しないコンテンツについては、オークションにかけて利用者を募り、その流通を促すというもの。将来的には、それぞれの番組についてテレビ放送前にネット利用管理権の所在が明確にされることを期待しており、そうした仕組みが定着すれば廃止される、時限立法的な制度だという。


 テレビ局への権利付与という考え方は、今年3月にデジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが提案し話題となった「ネット権」の発想に近いように思われる。これについて境氏は「私たちの提案は、各テレビ局が守るべき収益の公正配分の基準を明確にしようとしている点や、許諾されないコンテンツを半ば強制的に流通させる仕組みを持っている点などに違いがある」と説明した。


 議論の中では「NHKと民放とは分けて考えるべきではないか」「パソコンではなく、携帯で見ることを前提にすればインパクトも大きく、課金ビジネスも行いやすいのではないか」など、制度設計やビジネスの視点から多くの意見が出された。出席した東京大学の玉井克哉教授は「いいコンテンツを日本人が創り、海外に打って出られる仕組みにしなくては」と新たな制度に期待を示した。次回は1月に開催予定。


■関連リンク


「ネット利用調整制度に関する民間審議会」のWEBサイトhttp://www.sakaimasayoshi.com/net_rule/index.html



2008年12月4日木曜日

「日本発」でネット社会のビジョン示せ――Web 2008 Expo開催

Web2008  「日本から世界に発信する、ウェブ時代のビジョン」をテーマに、ウェブに関連する企業の担当者や研究者、技術者らが意見を交わす「Web 2008 Expo」が3日、 渋谷区立商工会館で開幕した。同イベント実行委員会が主催し、渋谷を中心に活動するアーティストらが集う、広域渋谷圏クリエイターマッチング有限責任事業組合ほかが運営にあたっている。4日まで。



 初日は、一つのIDで複数のウェブサイトのサービスを利用できる「オープンID」の活用や、ブログ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などの今後について議論を展開した。


 「日本のブログ」と題したセッションには、影響力の強いブロガーとのタイアップにより効果的なウェブ広告の配信を目指すアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦取締役と、著名人が多数参加していることで知られるブログサービス「アメーバブログ」を展開するサイバーエージェント新規開発局の長瀬慶重局長が参加。モデレーターをブログ基盤ソフト「ムーバブル・タイプ」を開発・販売しているシックス・アパートの関信浩社長が務めた。


 日本のブログの特徴については、ジャーナリストらが積極的に参加し、政治・経済や社会問題などを解説するメディア的な色彩が強い米国のブログに比べ、日本は個人の日記的なものが多い、という意見でおおむね一致した。この状況について徳力氏は「一部の人だけではなく、みんながブログを書いているということは、それだけ日本人の情報発信力が高いということではないか」との見方を示し、日記的だからといって必ずしも日本のブログ文化が劣っているわけではないことを強調した。


■関連リンク
Web 2008 Expoのウェブサイト http://d.hatena.ne.jp/web2expo/


2008年12月3日水曜日

ケンコーコム、広報担当者のブログでリリース補完

ケンコーコム広報室の高須賀令奈さん
 企業のPRを目的に社長以外がブログを運営する企業もある。健康関連の通販サイトを運営するケンコーコムは、広報担当者が「社内レポートブログ「KC Cafe」」を運営し、自社の様子や通販サイトで取り扱っている商品を紹介している。日々ブログを執筆している高須賀令奈広報室マネージャー=写真=に話を聞いた。



 ――広報室で開設した目的は


 「プレスリリースでは、内容や読む人が限られてしまう面がある。その欠点を補うために2005年10月からブログを使うことにした。私は二代目の担当者として2007年5月から書いている。リリースとして配信した話題にブログで補足したり、リリースを配信するほどではないが、ぜひ伝えたいと思った話題を紹介したりできる」


 「ブログの効果を厳密に測定しているわけではないので、数字には表わせないが、社外の反応はいい。商品について取り上げると、そのメーカーに喜ばれることもある。ここからメディア事業(自社サイトを活用した商品のプロモーション支援を手掛ける新規事業)など、Eコマース事業以外の新たなビジネスチャンスが生まれることを期待している」


 ――掲載内容は


 「毎日書くことを目標に、当社の最新ニュースをはじめ、通販サイトで扱っている商品や社内の様子を紹介している。通販サイトで買い物するお客様に会社の雰囲気をわかってもらう機会になるし、人事採用にも好影響を及ぼしているようだ。計画的に題材を決めているわけではなく、その日に気付いたことを書いている」


 「商品を紹介する場合は、通販サイト上で展開するプロモーションとは連動していない。利用者に一番近い視点で、自分で商品を試すような感覚で書いている。商品を詳しく説明するためにメーカーを取材することもあるし、逆にメーカーから広報ブログ掲載用に取り扱い中の商品を提案されることもある。いずれもブログなら、手軽にウェブ上の露出につながる点を評価しているようだ」


 「広報室内でのブログの内容チェックはなく、担当者の責任で発信している。始業前と始業後の時間を利用して更新している。公式ブログは仕事の一部であるが、100%業務とも言い切れないような気がするからなのか、この時間帯に更新するのがふさわしいと感じている。ブログの更新間隔があまりにも空くと、社内から指摘を受けるので、励みになる。写真が少ないと指摘されて、反省したこともあった」


 ――苦労していることは


 「ブログは多くの社員に会社の動きを伝えられる効果もある。広報担当として社長と行動することが多いので、社長の言葉を伝えることもできる。社員も読者であることを考えると、「どこを向いて書くか」ということに悩まされることがある」


 「今後も広報ブログを続けていきたいし、担当者が変わっても続いていくだろう。書く題材に困ることはないが、書くスピードが追いついていないのが悩み。毎日書くのが目標なのに、まとめて書いてしまうことも多い」


■関連リンク
社内レポートブログ「KC Cafe」 http://blog.kenko.com/pr/


◇ ◇ ◇

 日経メディアラボでは、「企業として、個人として、ブログとどう付き合っていくか」をテーマにレポートをまとめる予定です。ここでは取材結果の一部を紹介していきます。



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