2005年7月14日木曜日

「グーグルゾン物語」を読み解く(2)

temp1 グーグルゾン誕生のストーリーは緻密な分析によるものなのか、それとも荒唐無稽な空想なのか。メディアの未来を描いた「EPIC2014」という約8分間の映像作品は米フロリダ州にあるジャーナリスト向けの非営利教育機関、ポインター研究所出身のロビン・スローン氏とマット・トンプソン氏が製作した。









ポインター研究所の情報サイトなどによると、スローン氏は2002年にミシガン州立大学を卒業し、同年6月から翌年6月まで同研究所に在籍。04年11月からサンフランシスコの独立系ケーブルテレビ局「INdTV」でプロデューサーを務める。スローン氏は現在、アル・ゴア前米副大統領らが準備している視聴者参加型の若者向けテレビチャンネル「カレント」の立ち上げメンバーの一人に名を連ねている。





トンプソン氏も02年にハーバード大学卒業後、ポインターに在籍した。04年から「Fresno Bee」という新聞社でオンラインコンテンツ(情報の内容)を担当するプロデューサーに就いている。両氏の経歴や「ニューヨークタイムズはエリートと高齢者向けのニュースレターになった」とする作品の結末から考えると、作品は既存のジャーナリズムに対する警鐘を意図して製作されたようだ。





昨秋の作品発表後、両氏は多くのジャーナリストから「こんなものを人々は欲しない」との批判を浴びた。既存のメディア側はEPICの発想を認めようとせず、報道機関のブランド力や信頼性を盾に反論した。トンプソン氏は既存メディアの反発について「今まで競合相手とは考えられなかったネット企業が同じビジネスの土俵に現れることを既存メディア側は信じたくないのではないか」と見ている。このほどEPICは2014年以降の続編も登場した。既存メディアからの反発に懲りることなく、メディアの未来を模索する姿勢は変わらないようだ。





グーグルとアマゾンが合併するかどうかは別として、少なくとも電子媒体の世界ではパーソナライズドメディアが主流になるという予測は十分に現実味がある。例えば、キーワードによる検索で電子番組表から好みのテレビ番組を抽出して自動的に録画するHDD(ハードディスク駆動装置)内蔵レコーダーは着実に家庭に浸透している。「自分好み」をかなえてくれるデジタル技術の進化はパーソナライズド・ニュース・メディアの登場を予感させる。





日経メディアラボは6月、独自にパーソナライズ ドメディアへの関心を探るアンケートを実施した。過去に閲覧したニュースの内容に応じて、読者の関心があると思われるニュースを自動的に選択し、ユーザーごとに見出しなどを表示するサービスについて、インターネット調査で全国千人に聞いたところ、「とても興味がある」との回答は9.6%だった。「やや興味がある」(39.2%)との回答を加えると、48%が関心を示すという結果だった。年齢別に見ると、関心を抱く層は20代が69%、30代は61%と特に若い世代に多かった。





金融情報会社のQUICKはパーソナライズドメディアを意識した新サービス「アラートメール」を準備中だ。ユーザーが必要な銘柄を登録しておけば、上場企業が東京証券取引所経由で発信する適時開示情報を即時に携帯電話のメールで受信できる。情報の取りこぼしを防ぐためにパーソナライズしたニュース速報が必要という声は証券マンなどに多く、プロ向けのサービスとして需要を開拓する。





楽天証券はこのほど携帯電話に市況やチャート情報を短時間で更新して提供する個人投資家向けサービスを始めた。チャートは5分足、日足、週足、月足をそれぞれ80本表示可能。楽天証券に口座を持っている顧客は携帯電話のパケット通信代を負担するだけで、サービス自体は無料で利用できる。同社の三木谷浩史会長(楽天社長)は「月間の使用料が15万円もするような情報端末を使いながらディーリングルームでやっていた取引が、携帯電話でどこでもできる」と強調する。





パーソナライズした情報を提供するサービスは金融分野だけでなく、グーグルやNTTレゾナント(東京・千代田)の「goo」などが一般向けにも始めている。「goo」はNTTサイバーソリューション研究所が開発した「高効率類似文書検索エンジン」を採用。過去に閲覧した記事20件のデータと各記事から自動的に抽出したキーワードを比較し、指定したキーワードをより多く含む類似記事4本と写真記事1本を選び出す。





NTTレゾナントは昨年のアテネオリンピック特集面での実験結果が良かったため、正式な採用に踏み切った。実験では「おすすめ」ニュースを示した場合、通常のニュースよりも閲読率が8-10倍に高まったとしている。ユーザーの認識は「クッキー」と呼ばれる閲覧履歴の情報を利用し、クッキー内に20記事分のデータを保持する。興味がない記事をユーザーが見た場合は、自ら閲覧履歴から削除する機能を付け、パーソナライズドニュースの精度を上げることもできる。





新聞社がパーソナライズドメディアを手掛ける場合、既存の紙媒体との相乗効果を期待できる。新聞の購読を中止する人の理由の多くは「読む時間がない」だが、必要な情報を効率的に短時間で入手できるパーソナライズドメディアは紙媒体の販促ツールになる可能性がある。「あなたが関心を抱いているこの記事の背景記事は朝刊のこの面に掲載しています」などと告知して紙面に誘導することも考えられる。





ただ、パーソナライズドメディアが実用レベルに達するためには課題も少なくない。「おすすめ」機能の精度を高めないと、単におせっかいなサービスになってしまう。新聞の一覧性を評価する意見も多く、メディア研究者の中には「パーソナライズドメディアは各個人に対して情報の孤立化を生む恐れがある。結局、ゆり戻しが起きてニュースを一覧できるメディアを見直すことになる」との見方も根強い。


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