2007年5月10日木曜日

「ネット・ガバナンス、利害超えた議論が大切」

マーカス・クマーIGF事務局長
 インターネットの管理体制(インターネット・ガバナンス)をテーマに活動している国連インターネットガバナンスフォーラム(IGF)。米国主導のインターネット運営に対する批判が高まるなか、国連が設けた組織で、2005年の世界情報社会サミット(WSIS)で設立が決まった。来日中のマーカス・クマー事務局長に、2006年秋にギリシャ・アテネで開いた第1回総会の成果や、今後の活動などについて聞いた。



――アテネの第1回総会の成果は


 「政府、企業、NGO(非政府組織)、技術者など、様々なステークホルダー(利害関係者)が一堂に会し、丁々発止の議論で盛り上がった。議論のテーマも著作権、サイバー犯罪など多岐にわたった。インターネット関連の会合はたくさんあるが、こんな議論の機会を持てたのはIGFが初めてだと思う」


 「なかでも、政府、企業、市民社会など様々な利害関係者が協力する「ダイナミック・コアリション」(積極的な連携)の重要性が指摘されたことは大きな成果といえる」


 「『(インターネットの)開放性』『セキュリティー』『多様性』『アクセス』などの議題のうち、最も刺激的だったのは『開放性』。特定の国や企業を名指しして責めるような外交的な議論ではなく、民間企業がどういう役割を果たせるか、そもそもネット上の表現の自由とはどういうものか、といった議論できた」


 「世界情報社会サミットでは、ここまで突っ込んだフランクな議論はできていなかったと思う。(特定の利害関係者による議論と違い)既存のビジネスモデルを超えた解決方法があるかもしれない、という段階まで議論を深めることができた。また、インターネット自体が、ダイナミックに進化し続けていることも、強調された」


――今後、議論していくテーマは


 「2007年11月に第2回IGF総会をブラジル・リオデジャネイロで開く予定。議論のテーマはこれから決めるが、幅広いテーマについて話し合う姿勢は続けていく。第1回総会で議論された途上国支援や、(スパム対策などに取り組むうえで)国内法と国際協力の兼ね合いをどうするか、などが重要になるだろう」


 「スパム対策などの国際ルールをつくるとすると、「国際条約をつくろう」という人もいる。しかし、国際条約をつくるのは、時間がかかりすぎる。ようやく条約ができたと思ったら、技術が進んで、もうその問題は存在していない…といった事態も十分考えられる」


――IGFでのクマー氏の役割は


 「私は国際社会のために働く公僕だ。いろいろな人の貴重な意見に耳を傾けることが重要だと思っている。IGF以外にも様々な会合に参加し、そこで知り合った各国の人々から招待を受けて説明に出掛けることも多い。様々なステークホルダーの方々に会い、IGFの議論に参加してもらうのが私の役目。インターネット・ガバナンスの問題は政府だけでなく企業や市民社会、技術者らが一体になって、取り組むことが重要だ」


――日本の政府や企業、市民社会に望むことは


 「日本はICT(情報通信技術)にとっても、インターネットにとっても、国際的に重要な国。あらゆる人々にIGFに参加してもらえるよう、切に願っている。政府関係者だけでなくビジネスリーダーにもどんどん参加してほしい」


――通信の標準化を進めているITU(国際電気通信連合)、インターネットアドレスを管理しているICANNと、IGFはどう違うのか


 「IGFは意思決定をする組織ではない。様々な立場の人々が同じ屋根の下に集まって話し合う中立的なプラットフォームだと考えてほしい。どんな立場の人でも、恐れずに議論に参加できる」


 「IGFは意思決定の機能がないのが弱点だと言われることもある。しかし、様々な立場の人々が交渉ベースではなく自由に議論できる利点がある。毎年開催される世界経済フォーラム(ダボス会議)も、意思決定の機能が弱いが、世界各国の人々から高い関心を集めている。IGFも同様だ。ITU、ICANNはそれぞれ本来の活動があり、活動範囲を超えた広範なテーマの議論は難しい。IGFと補完関係になれる」


■関連リンク
「インターネット界のダボス会議を目指す」(NIKKEI NET)
インターネットガバナンス」(ウィキペディアの用語解説)
IGFのホームページ(英文)


0 件のコメント:

コメントを投稿

フォロワー