2009年4月22日水曜日

「日本、ICTを有効利用できてない」慶大がシンポ



ブラッド・スミス氏


 慶應大学SFC研究所プラットフォームデザインラボは21日、マイクロソフトと共催で「インターネットエコノミーは経済危機を救えるか」と題したシンポジウムを日吉キャンパス(横浜市港北区)で実施した。産官学の有識者が、世界同時不況の中でICTをどのように活用すれば効果的かを話し合った。



 基調講演にはマイクロソフトのシニアバイスプレジデントであるブラッド・スミス氏が登壇。スミス氏は、人口の増大によって経済を成長させることが望めない米国や日本では、生産性の向上に取り組むしか道はないと指摘し、その原動力としてICT活用すべきだと主張した。マイクロソフトでは現在、ICTの動きの中でも3つの分野に注目しているという。まずパソコンなど端末の機能向上。二番目は大型化・軽量化といった多様なディスプレー関連技術の進展。そしてクラウドコンピューティングだ。


 特に端末の機能向上に関しては、それによって新しいユーザーインタフェース(UI)が可能になると予見した。かつて、コンピューターはテキストを入力することで操作していたが、それが「ウィンドウズ」などのグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)に取って変わった。今後は、タッチスクリーンや音声認識などを活用し、情報に手を触れるような感覚で自然に操作できる「ナチュラルユーザーインタフェース(NUI)」になっていくという。



慶大の村井純教授もテレビ会議で参加

 また日本の現状については、産業界全体の生産性の高さ、民間企業の積極的な研究開発、世界最高レベルのブロードバンドなどを誇りながら、世界経済フォーラムの発表したIT競争力では17位にとどまっている点に言及。その理由は「日本は自分達の作った技術を有効利用できていない」ことにあると断言した。その上で、利用が進んでいないことはICT産業にとって大きなビジネスチャンスでもあると分析した。そしてさらに大きなチャンスを得るために、海外の企業とも積極的に連携し、世界の市場を見据えたビジネスを展開するべきだ、と付け加えた。「いかなる国、いかなる企業も孤立してはいけない。パソコンと同様、すべて接続された状態になっているべきだ」と述べ、グローバルな協調の必要性をうったえた。



 続くパネルディスカッションには、スミス氏のほか、アマゾンジャパンの渡辺弘美渉外本部長、総務省情報通信政策課の谷脇康彦課長、慶應大学の國領二郎教授、金正勲准教授が参加し意見を交わした。司会は中央大学大学院の折田明子助教。


 アマゾンの渡辺氏は、日本ではインターネットが二次的、三次的に考えられていると指摘し、これをインターネットが優先的に使われる「ネットネイティブ」な社会にしていくべきだと主張した。そのために、生まれながらデジタル環境が身近にあった若い世代を積極的に登用し、活躍しやすいよう制度的にも支援していくべきではないか、と提案した。総務省の谷脇氏は、今はユーザー視点、人間中心の考え方で大胆に政策を進めるとき、と話し、行政の効率化を進める「霞が関クラウド」と並行して、「国民電子私書箱」の開発に乗り出す計画を紹介した。これは住民の側から手続きや申請をしてくるのを行政が待っているのではなく、行政側からひとりひとりに積極的に働きかけていく「いわばプッシュ型の行政サービス(谷脇氏)」だという。



意見を交わすパネリストたち

 慶應の金氏は、現在日本には電波帯域の再分配や、NTT再々編など重要な課題があるのに、国民的な議論が起きていないのは大学にも責任がある、と話し、産官学で国際的な視野を含めた議論をしていきたいと決意を語った。國領氏も「役所は予算をつけるだけであとは何もしない、という批判もあるが、民間側も答えを出すことができなかった」と述べ、ITの利活用が進んでいない責任は政府だけにあるのではないとの考えを示した。



 ディスカッションでは、今の状態でクラウドコンピューティングが進むと、個人情報などすべての情報が海外のIT企業に握られてしまうのでは、という危機感があることが話題となった。これについてスミス氏は「各国政府はなるべくデータを国内に置きたい、と考えるかもしれないが、それは誤りだ。インターネットによって国際的な調和を図るという視点に立てば、データの移動が起きるのは当然」と述べ、むしろ政府が積極的に動くことで国際調和を推進してほしい、と注文をつけた。これに対し国領氏は「まだ何のための国際調和かも分かっていない状態。こうすればうまくいく、という漠としたイメージはあるが、急いで具体的に考えていかないととうてい間に合わない」と不安を口にした。金氏は「結論を出すのも大事だが、そのプロセスも重要」として、かつて米連邦取引委員会(FTC)が、行動ターゲティング広告とプライバシー問題についてすべての利害関係者が参加できる形で、大規模な議論の場を設置した事例を紹介した。


 一方で谷脇氏は「クラウドが危険、というのはステレオタイプな見方。個人情報に結び付けられたデータとそうでないものを分けて考えるなど、冷静な議論が必要では」と述べ、渡辺氏も「セキュリティーや信頼性に注意が集まるのは当然で、提供者側は情報の開示など、最大限の努力を払うべき。ただ、石橋を叩きすぎて壊してしまうようなことにはならないようにしたい」と話し、過度の懸念はマイナスになるとの見方を示した。


(参考リンク)
http://platform.sfc.keio.ac.jp/


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