2009年5月1日金曜日

「インタフェースとコンテンツの間に区別はない」チームラボ・SKETCH PISTONとは

Teamlab03  インターネット関連システムの開発やアート作品の制作を手がけるチームラボ(東京・文京区)は4月、新しいWEBデザインのコンセプト「SKETCH PISTON(スケッチピストン)」を発表した。情報を掲載したWEBサイトであると同時に、その画面がゲームにもなっているというざん新な手法で、すでに第一弾として都市開発を手がけるアイディーユープラス(大阪市、田端知明社長)の企業サイトを構築した。



 アイディーユープラスのサイトを開くと、「会社概要」「採用情報」などと描かれた雲が画面の中を流れていく。そして背広姿の小さなキャラクターが次々と上から降ってきて、画面の中を歩き回り始める。そこにマウスで線を描き、道を作ってあげるとキャラクターたちはもくもくとそれに沿って歩く。画面内に自動車を走らせたり、気球を浮かべたりすることもできる。


 この不思議な感覚のWEBサイトを、チームラボはなぜ作ろうとしたのか。そして何を目指しているのか。社長の猪子寿之氏と、同社マーケティングプランナーの渡部憲一氏に話を聞いた。


 
――どういうきっかけで開発に着手されたのですか。


(猪子)
もともと、WEBにラクガキができたらおもしろいんじゃないか、という発想がありました。しかも、ただ図形を描くようなものじゃなくて、描いたものがアニメーションのように動き出したりして、自分が描いた世界で遊べるようなものだったらおもしろい。そんなことをチームの中で話し合って作っていきました。


真っ白なキャンパスに絵を描くのって意外に難しい。でも、ある程度完成された世界がそこにあって、そこにイタズラするような感覚で絵にしていくのなら誰でもできます。


(渡部)
ゲーム性を入れよう、という考えもありましたね。


(猪子)
そう。それもルールはシンプルで、自分で目的まで作れるようなゲームです。


どんどん画面に出てくる「ジャパニーズビジネスマン君」は、基本的にまっすぐ前を向いて歩きます。そこにビルを建てると方向転換して反対側に歩き出すし、坂道を描けばがんばって登ろうとする。ボールを置いておけば転がしていきます。各要素には物理的な法則だけがパラメーターとして与えられているだけなので、それらが重なったときにどう動くかは、僕たちも完全には予測できません。現実の物理法則とは一致しないので、ビルが飛んでいってしまうとか、あり得ないことも起きますけど、まあおもしろいからいいか、って(笑)。


ただ何となく動かしている人もいれば、ゴールのようなものを作って遊ぶ人もいる。絵を描く人もいます。みんな勝手に遊んでいます。


(渡部)
ひとつ具体例を見せましょう。ボールは普通に置いておけばジャパニーズビジネスマン君に押されて転がるだけですけど、坂道を作って、たくさんのジャパニーズビジネスマン君が協力して押し上げていけば、ボールを宙に浮かすこともできるんじゃないか。そう思って試してみたらできたので、「大玉ころがし」のようなゲームにしてみました。(下記動画参照)。でも、なかなかうまくゴールに玉が入ってくれない。

(猪子)
うまくいきそうでいかない、それもゲームの快感だと思うんですよ。イメージとしてはピンボールですかね。思い通りにならないのが楽しい。


――最初の作品が企業サイトになったのは?


(猪子)
以前から取り引きのあったアイディーユープラスさんからコーポレートサイトをリニューアルしたい、というお話をいただいたとき、今までになかったものにしよう、ということになって。都市開発を手がけている企業なので、ビルや樹木が出てくる「まちづくり」をモチーフにしています。ジャパニーズビジネスマン君を登場させたのは、日本の働く人ってかっこいいと思うから。僕のイメージでは、日本の都市はまっすぐに一生懸命働くビジネスマンと、イタズラ心で出来ています。


コーポレートサイトはきっちり作るもの、というイメージがありますけど、それだけではもったいないと思います。WEBは今、企業にとって顧客との最大の接点ですからね。せっかくサイトを訪れてくれた人には情報を楽しく見せてあげたいし、それによって面白いことをしている会社だな、と感じてもらえる。コミュニケーションのきっかけにもなります。最終的にビジネスは人と人との間で成り立つわけで、コーポレートサイトがうまくきっかけを作れば、場合によってはキャンペーンサイトを作るよりも効果的だと思いますよ。


――自社のサイトはスケッチピストン化しないのですか。


(猪子)
医者の不養生ですか?だって自社サイトをそうしても、誰もお金くれないし(笑)。ただ、スケッチピストンのプロモーションサイトは、ラクガキができないだけで実は裏でスケッチピストンが動いています。



インタビューに答えるチームラボの
猪子寿之氏(右)と渡部憲一氏

――サイトそのものがゲームになっていますが、サイト内のひとつのコンテンツとしてゲームを提供する、という形は考えませんでしたか。


(猪子)
考えませんでしたね。それには全く興味を感じません。


本来、コンテンツとかインタフェースとかって、区別がないものだと思うんですよ。


僕は高校を出たころからインターネットを始めて、大学を卒業して大学院に通いながらデジタルメディアの会社を作った。そのために既存のメディアと深くかかわる機会がなかったんです。テレビも見てませんでしたし。


だから本や新聞といった、紙のメディアの発想で作られたWEBサイトには、昔から強烈な違和感を持っていました。まずトップページから入って、サイトマップ通りに遷移していく階層構造とか、わけわかんない。そもそもページなんていう概念もなくていい。ネットってもっと自由なものだと思うんですよ。スケッチピストンに触れることで、そこを感じとってもらえたら嬉しいですね。それが未来へのヒントにもなると思います。


――今後、スケッチピストンでどのようなサイトを作っていく予定ですか。


(猪子)
正直に言いますよ。なんも考えてない(笑)。作るときは必死で作るので、後のことはあまり考ません。ただ現状でいくつか案件は動いていて、次回作はイラストレーターのタナカカツキさんとコラボレーションするプロジェクトになる予定です。


クリエーティビティーを刺激できるものだと思うので、将来的には教育とか福祉の分野にも応用できないかな、とも話しています。企業が採用に使ってもいいかもしれない。これで自由に遊ばせると、キャラクターの違いがくっきり出ますからね。渡部君のようにきちんとゴールを作ってその目的に向かう人もいれば、僕みたいにひたすらジャパニーズビジネスマン君を加速させようとする人もいる(笑)。


――さきほど「未来へのヒント」という発言がありましたが、チームラボが思い描く未来とは?


(猪子)
そうですね……言語化するのは難しいけど、まずワクワクする存在であってほしい。そこに行きたくなくなるような未来はイヤです。それと近年、日本の社会が急速に息苦しくなってきているように思うんです。他人とズレちゃうことが悪、みたいな。生産性が高く、合理的で、でも寛容な社会。そういう未来を創造していきたいですね。


そのためのクリエーティビティーは、チームで発揮されることになります。クリエーティブ、って言うと個人や個性の問題だと考える人も多いけど、僕は絶対そうは思わない。社会はますます複雑化しているし、全部一人で考えることなんてできません。そもそもクリエーティブな仕事って、誰かとの対話などを通じて、人の知恵を借りながら考えていくもの。だから僕らはチームでいきますよ。


                      ◇    ◇


スケッチピストンを初めて見たときに強烈な面白さを感じたが、その面白さをうまく説明することができなかった。今まで使ったことのない脳の一部分を刺激されたような感覚。それはまさしく芸術作品から受けるものだった。スケッチピストンは、高度なテクノロジーに基づくビジネスだが、同時に優れたアートでもある。しかし、猪子氏は「ビジネスとアートの区別も意味がない」と言い切る。既成の枠組みや発想、構造から常に自由であり続けるチームラボの強みを、スケッチピストンは象徴的に示している。


最後に、渡部氏はこっそりとこのゲームに隠された“裏技”を教えてくれた。「画面の右上にキーワード検索のボックスがありますが、ここにサイト内にない言葉を入れてみてください」。試してみると、チームラボの技術力とイタズラ心のレベルを目の当たりにすることができる。


(参考リンク)
「SKETCH PISTON」プロモーションサイト
http://www.team-lab.com/sketchpiston/sketchpiston1/


SKETCH PISTONで構築されたアイディーユープラス社のWEBサイト
http://www.iduplus.jp/


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